とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

出逢ってくれてありがとう ~『私立恵比寿中学HISTORY』を読んで~

去年のエビ中の秋ツアーの際に『私立恵比寿中学HISTORY 幸せの貼り紙はいつもどこかに』を購入した。

 

メンバーや運営の思惑など、これまで明かされなかった部分が赤裸々に語られており、非常に興味深い内容だった。感想をここに記しておきたい。

本書は基本的に、時系列順に起きた出来事とその時に感じられたメンバー(と運営)の心情を追っていく構成になっている。以下僕自身の記憶も交えながら、1章ずつ振り返っていきたい。

※以下、ネタバレ等を含みますのでご留意ください

 

 

 

本編(各章)の感想

第1章 運命の始まり

この章では主にエビ中最初期の結成当時の雰囲気や、各メンバーの心情が語られる。結構適当にエビ中というグループが結成されたことがよくわかる。また、印象的なのはメンバー間の軋轢だ*1。ひなたの言葉にもそれがよく表れている。

同じグループだけど、分かれている感じで、アイドルだけど裏はあんまりキラキラしていないんだなって。特に、その頃のれいなと瑞季と真山は、黒やら紫やらのオーラがすごくて本当に怖かった!

この頃のメンバーは小学生だ。大して覚えていないが、僕も小学校の同級生女子のことを思い出すと、何かとめんどくさそうな雰囲気があった。しかもエビ中メンバーは曲がりなりにも芸能界に足を踏み入れたのだ。軋轢は自然な流れだろう、と感じた。

 

第2章 大人たちの思惑

この章では、初期のエビ中に対する運営の大人たちの印象が語られる。本当にフワフワしたところから始まり、だんだんと初期のエビ中の方向性が固まっていくさまが見てとれる。「校長」こと藤井ユーイチ氏は語る。

アイドルに『お兄ちゃん!』って言わせるとか、アキバ系の萌えゼリフとかブリブリしたアイドルが嫌いだったんですよね。だから、漠然とではありますけど、メンバーにやらせたくないことははっきりしていったと思います。

初期の手探り感から、だんだんと運営の大人達によって方向性が見えてくる。運営の赤裸々な言葉が語られることは少ないため、この章の話は非常に面白いものだった*2

 

第3章 少女たちの意志

 この章では主にメジャーデビュー前後から瑞季なっちゃん、裕乃さんの転校までが語られる。僕がエビ中にハマったのは「未確認中学生X」のころ、つまりこの時期である。


私立恵比寿中学 『未確認中学生X(さいたまスーパーアリーナver.)』

なので、この章で描かれた、メンバー間の軋轢は非常にショッキングだったし、同時に興味深いものだった。当時の状況を裕乃さんは語る

『俺の藤井』に向けてレッスンやリハーサルをしていくんですけど、明らかに転校組と残留組で分かれているんです。(中略)それで、そのまま『俺の藤井』の前日になって、残留組の誰かが『これから6人でご飯食べようね』って転校組に聞こえるように言ったんですよ。

誰だかわからないが、めちゃ性格の悪い一言である。僕だって、アイドルオタクをやって7年、メンバー間で上手くいかないことがあるのは知っているつもりだが、ピュアオタク時代に上記映像を含むエビ中SSAのDVDをみて感動した身としては悲しいものがある。。。しかし、思春期の女の子グループである。至って自然なことだし、それはこの本がその当時の「リアル」を描き出している証左とも言えよう。

 

第4章 新しい出会い

 この章ではかほりこ加入時のことが描かれる。受け入れメンバーの苦悩と、かほりこ自身の苦労が描かれる。美怜ちゃんは当時のことを語る。

メジャーデビューしてから、いろんなことを乗り越えて団結力も強まっていたから、ここに誰かを入れてたまるかっていう気持ちでした。

また、ここでかほりこ加入がサプライズで発表された時のオタクの様子も描かれるが、「え、俺のこと見てたの?」という気持ちになった。僕は当時「俺の藤井」を地元の映画館にてライブビューイングで見ていた。そして、終了後全く同じようなリアクションをしていた。ももクロに杏果が入る時ですら受け入れに相応の時間がかかったのに、いきなり2人入れるとかある?という会話をした記憶がある。

また、この章ではぁぃぁぃの年齢離れした洞察力にも触れられる。

泣くときは、泣いているところを見られたくないから、すぐにトイレに駆け込んでいました。(中略)でも、なぜかぁぃぁぃに見つかるんですよ(小林)

ぁぃぁぃのこの洞察力はどこで培われたものなのだろうか。。。本当にコミュ力オバケである。改めて、ぁぃぁぃがエビ中というグループでいかに大きな存在だったかを痛感したポイントでもある。

 

第5章 連鎖する苦境

この章では、快進撃を続けるエビ中に訪れる苦境、ひなたの突発性難聴とぽーちゃんのバセドウ病について描かれる。近藤キネオ氏は当時のひなたの様子をこう語る。

インタビュー中にずっと泣きながら、メンバーがお見舞いに来たときの話をするんですよ。お見舞いに来た小林がジュースを買って、それを落としてコロコロ転がったとか、そういうことがおかしくて、うれしくて、やっぱりエビ中に戻りたいと思ったって。

彼女たちはこの時点で何度も1万人規模のライブを成功させているプロのエンターテイナーだった。しかし、その中身はまだ10代の女の子だ。誰よりも歌を大事にしていたひなたが向き合うにはこの病気は本当に重いものだっただろう。僕は、「エビ中++」の収録で「ひなたがいなかったらエビ中じゃないじゃん」というりななんの言葉を聞いて大粒の涙をこぼしていたひなたの姿を思い出した。

時々忘れそうになるが、ひなたの突発性難聴もぽーちゃんのバセドウ病も完治していない*3。あの小さい体にどれだけのパワーがあるのだろうか…改めて実感する*4

 

第6章 別れと覚悟

この章で描かれるのは、2017年2月8日のこと…りななんの死である。

今でも鮮明に思い出せる。当時、僕は会社の食堂で昼飯を食べていた。その時、会社の先輩から「ニュース見たか?大丈夫か?」というLINEが入った。何だろ、と思いスマホのブラウザを開いて目に飛び込んできたのは「私立恵比寿中学 松野莉奈さん死去」という信じられない文字列だった。

思考が止まった。「大丈夫ですか?」と尋ねてきた後輩に「大丈夫じゃない」とだけ返事をしたが、そのまま昼食を食って、打合せに出て、普通に仕事をした。なんだか、会社にいる間はずっとボーっとした気分だった。夜、帰宅途中の家の近所の喫煙所でタバコを吸っていたら、涙がボロボロ出てきて止まらなかった。そして、家に帰ってまた泣いた。

一介のオタクの僕でそのくらいショックを受けたのだ。その時のメンバーや運営の様子が克明に描かれるこの章を読むのは本当に辛かった。

家に帰ったら、テレビのニュースで莉奈がランウェイを歩いている映像が流れているのを見て、心の中で『やめて!』って叫んでいtました。昨日もおとといも一緒にいたのに。エビ中のグループLINEを見ると、最後が莉奈のスタンプだったから、それを見返して、嘘でしょって。ずっと夢の中にいる感じというか、世界がぐるぐる回って、自分の頭じゃ理解できなくて、でも事実だけがニュースで淡々と伝えられて……それが違和感だったというか、違う世界にいる感じがしました(星名)

しかし、その中でも立ち上がろうとするメンバー達の姿も描かれていた。りななんの死を受け入れることも困難な状況だ。僕は本書を喫茶店で読んでいたが、このあたりから涙をこらえるのに必死だった。ていうか、泣いていた。

藤井さんは、気を遣って「みんなの気持ちを尊重したい」って最初は言ってくれました。もう無理だと思ったら、やめてもいいよって。でも、私はすぐにそれはないなって思った。せっかく莉奈が残してきた、頑張って積み上げてきたものをここで手放したらいけないって思ったから。しがみついてでも、私はエビ中にいなきゃいけないと思いました。(安本)

 

第7章 終わりなき激動

この章ではエビ中の再始動、そしてぁぃぁぃの転校に触れられている。ここで印象的だったのは、各メンバーの反応である。「前の年から、そろそろかなって思っていました。(真山)」「あいかがリハでこんな表情をするなんて、いつもと違うなって。(星名)」と話すのに対し、安本さんは次のように語った。

まさか、このタイミングでって思いました。ショックでしたね。私は、『7人のエビ中を好きになってほしい!』って、あんなに大勢の人の前で大きな声で言ったよ!すっごい決意で言ったよ!あいかも聞いたよね?

エビ中を追ったドキュメンタリームービー『Everything Point5 Another Edition*5』でも、ぁぃぁぃの転校発表時に安本さんがすごく強張った顔をしていたことを僕は今でも覚えている。 

また、ここでは美怜ちゃんが食らった文春砲にも触れられている。ひなたやぽーちゃんがブチギレていた様子が印象的で面白かった。もちろん僕も「どーなの?」とは思うが、ぽーちゃんが語ったことがすべてだ*6

結局、美怜ちゃんって憎めないんですよね。あと、みんな美怜ちゃんのことが好きなんです。だから時間が経つと許しちゃう。本人が意外にケロッとしている様子だと、たまにイラっとするけど(笑)。

 

第8章 再びの危機

この章では、ぁぃぁぃ転校後のライブそして、美怜ちゃんの事故について描かれる。

ぁぃぁぃ転校の翌日に行われた「ebichu pride」の舞台裏について克明に描かれるが、驚いたのは、新メンバーオーディションの発表する予定だった校長が本番のパフォーマンスの気迫を見て、止めたことだ。僕もそのライブには参加していたが、本当にすごい気迫を感じた*7

普段の大学芸会や前日のようなコンセプチュアルな側面は出さず、ひたすらパフォーマンスを軸にライブは進行していく。曲間をシームレスにつないでいく伝家の宝刀もキレキレに冴え渡る(春の嵐の前後ではオサカナPの照井さんが作った部分もあったようだ)。「ここで見せなきゃどうするんだ!」というメンバーの気迫が表れていた。

でも、ほら、たぶんこっちだよー! - とあるKSDDのアイドル考察録

 こうやって、何度目かわからない再スタートを切ったエビ中を襲ったのが約1年後の美怜ちゃんの事故だ。病名は「脳挫傷、左側頭部骨折、および外傷性くも膜下出血」という事だ。美怜ちゃんは2019年途中から限定的ながらもパフォーマンス自体には復帰していたので、まさかそこまで重い怪我だったのか、、、と驚いた。しかし、いったいどれくらい障害が訪れるのだろうか。。。

なんでいつもエビ中にばっかりって、やっぱり思いましたよ(安本)

 

第9章 夢のその先へ

ここでは、10周年を記念して開催されたMUSiCフェスのことが、そしてメンバーのこれからのエビ中への思いが語られる。あまりここについて語るのも野暮だろう。本書を読んでご確認いただきたい。僕が当時書いたMUSiCフェスのエントリでも貼っておこう。

idol-consideration.hatenablog.com

 

全編を通して

この本の最後には写真コーナーがあり、MUSiCフェスの写真そのコーナーの表紙を飾っている(下記リンク)。

natalie.mu

本書を購入後、このページを見た瞬間に急に涙があふれた*8。たくさんの困難に打ち勝つ…というよりは、どうにか支えあって、受け入れて活動してきた末にたどり着いた10年目の集大成ともいえる観客たちの前に佇む彼女たちの姿は本当に強く、美しく、、、心から「尊い」と思ったのだ。これは心臓のドラマだ。


ジャンプ Live at バンドのみんなと大学芸会2019エビ中のフルバッテリー・サラウンド

 

 エビ中のこれから ~「HISTORY」を聞いて~

そして、本書では語られていないが、エビ中にはまた新たな困難が訪れている。僕の推しでもある安本さんの長期休養だ。

idol-consideration.hatenablog.com

 

先日発売されたニューアルバム「playlist」に収録された1曲「HISTORY」はエビ中メンバーが作詞したものだ。その中にこんな一節がある。

出逢ってくれてありがとう 見つけてくれてありがとう
神様は見てくれなくても 気づいてくれる人がいる

安本さんが復帰できるかどうか、エビ中に幸せな未来が待っているかどうかは誰にもわからないし、エビ中が歩んできた道のりは、神様がいるのなら恨みたくなるようなものだった。だとしたら、エビ中のこれからを支えられるのは「人」だけだろう。

僕はこれからも、エビ中と安本さんに幸せな未来が来るように、微力ながらCDを買って、ライブに行って、ブログを書くこととしよう。そうやってアイドルと、推しと共に自分のHISTORYを刻んでいくことがオタクとして生きるという事だ。

 

タイトルは「HISTORY/私立恵比寿中学」より

*1:ある程度予想できた事ではあるが

*2:職員会議とかはあるが、このように本になることは少ない

*3:現に、ひなたは未だに花道に出てくることが、ほとんどない

*4:ぽーちゃんは結構でかいけど

*5:タイトルうろ覚え。映画館で見れるやつだ

*6:もちろん許せない人もいるだろうが…

*7:このころから僕はブログを始めた

*8:一緒にいた彼女が「え、何で急に泣いてんの!?」と言って驚いていた