先日、フィロソフィーのダンスが1stオフィシャルブック『U Got The Look』を発売した。この本を読んだことで更にフィロのスへの理解を深めることができたように思う。
インタビューからフィロのスの過去、現在、未来が描き出されるうえに、可愛い写真からセクシーな写真、更には楽曲のレビューまで楽しめる『U Got The Look』、気になっている人はぜひ買ってみよう。
メンバーソロインタビュー
メンバーごとに、かなりのボリュームがあるソロのロングインタビューが掲載されいている。インタビュアーは楽曲派アイドルのインタビューに定評のある南波一海さん。幼少期から中高生の過ごし方、グループに入った経緯と現在の活動について、と時系列に沿って細かいインタビューが行われている。
奥津マリリ
マリリさんのパートで印象に残ったのは、バンド解散時の話だ。マリリさんの所属していたバンドは『閃光ライオット』のファイナルにまで残るが、結局は解散に至ってしまう。その時のことをマリリさんはこう語る。
楽しいからという理由でやってたものじゃなくなっちゃう。でも、それがプロなんだなとも思って。洗礼というか、楽しいだけじゃないんだなっていうのはそこで1回浴びて。結果、みんなが疲弊してしまった。
また、そういった経験からか、メジャーデビューやグループの成長についても冷静に見つめている姿も見えてくる。マリリさんはフィロのスのリーダーである。実際どのくらいリーダーロールをやっているのかはよくわからないが、グループのことを一定俯瞰して見ているという事が感じられる。
もちろんファンのかたにとってみたらいいお知らせだと思うから、私たちがちゃんと進んでいることを示せたのはすごく嬉しいと思います。でも、それで浮かれているようじゃね。
佐藤まりあ
あんぬさんのインタビューでは、ありとあらゆるオーディションを受けまくる不屈のメンタルが描かれる。
やっぱメンタルだけは強いんですよね。鋼。受付も何かのチャンスと思って、働きながらアイドルを目指して。パン屋さんのバイトとかけもちしました。
また、メジャーデビューについての冷静な捉え方はマリリさんとも一致している一方で、大きな野望も飛び出す。この4人の中では最も王道メジャーアイドル志向が強いのはあんぬさんではないだろうか。こういった、「タイプ」の違いがグループにとっても良い方向で作用しているように感じられる。
最近思ったことは、バカな話なんですけど・・・・・・・大晦日にお家でゴロゴロして紅白を見てたら、出たいなぁと思いました。
日向ハル
ハルちゃんのインタビューで印象に残ったのは、アイドル活動初期の葛藤だ。歌唱力も高く、ダンス経験も長いハルちゃんならでは、それが「できてしまう」ことに悩みがあったようだ。確かにそこはフィロのスの弱みでもある。強すぎること、器用すぎることがアイドルとしての魅力を阻害してしまうことは十分にあり得る。
逆に元からできることへのコンプレックスがあって。アイドル文化って成長を見守るっていう面があるじゃないですか。ダンスとかバンドとかは圧倒的にできることがカッコいいと思っていたんですよ。
そしてインタビューの〆はいかにもハルちゃんらしいコメントで締めくくられる。なんだそりゃ!
慢性的な便秘がつらいです。便秘外来に行ってます。うんこは出た方がいいんですよ!
十束おとは
実は、大卒で就職までしているおとはす。現在もしばしば活躍するパワポスキルなんかは大学で培ったものなのかもしれない。なんかあっても、すぐに就職できそう。
もともと勉強していた社会福祉を役立てたいなと思ったんですけど、挫折しちゃって。それで全然違う会社に入りました。
(中略)
働いたのも数ヶ月くらいなんですけどね。それから紆余曲折あって、引きこもりになって、家から一歩も出なくなりました。
そして、オタク気質の強いおとはすはドルオタになる。確か、でんぱはねむきゅん推しでエビ中はぁぃぁぃ推しのはずだ。5人ドロシーが@JAMで復活した時もなんか言及していた気がする*1。おとはすとアイドル談議とかしたらめっちゃ盛り上がる自信がある。
小さい頃にモーニング娘。さんがとっても流行っていたのでテレビで見ていたし、秋葉原が好きになって、でんぱ組.incさんがブレイクし始めて。オタクの女の子がアイドルになるっていう事があこがれだったし、勇気をもらえました。そこから地下アイドルと呼ばれるものにもハマったり、Dorothy Little Happyさんやエビ中さんとかの現場に行ったりもしてました。
また、4人の中で最もキャラを「作っている」のがおとはすだ。これは悪い意味ではなく、アイドルオタクを経験したからこそのプロ意識の表れだろう。
「おとはす」に自分の理想を詰め込んだ結果、自分の人間性がそっちに寄っていったんですよね。皆を幸せにしたい、元気にしたいと言い続けて、自分がこうあったらいいなと思う姿を投影した結果、陰だったものがちょっとずつ陽に寄っていったんですよ。
メンバークロストーク
メンバーから2人ずつ抜き出すので、4C2=6通りのクロストークが収録されている。 メンバー同士の関係性が見られてとても面白い。
(奥津)はすが絶対に触れられたくないであろう、パーソナルスペースにずかずか飛び込むのが大好きで(笑)。嫌がることをするのがいいんです。
(十束)めっちゃ迷惑なんですよ(笑)。
加茂啓太郎インタビュー
考察系のオタクが大好きなプロデューサーへのインタビューだ。なお、本内容はRealSoundでも全編公開されている*2。
興味深かったのがロックバンドとアイドルの両方から、いいとこどりをしようとしている点だ。
バンドの場合だと、「曲をつくりました」となったら、ライブで何回かやってからレコーディング、という流れですが、アイドルの場合は「曲ができあがってきました」となったらすぐにレコーディング、その後にライブ、となるケースがほとんどです。僕としては、まずそこをバンドと同じやり方に変えていきたいと思いました。
(中略)
アイドル文化ってやっぱり無理して大きめの会場を抑えて、ファンも煽りながらそこを埋めていく、という風潮があるじゃないですか。でも、あれってアイドルファンじゃない人には違和感がすごくあるから、それも避けたいなと思い、ここまで5年間は着実に、現実的なキャパシティの会場でライブをやってきたんです。
写真コーナー
4人お揃いグラビア、ソログラビア、等の可愛い写真からセクシーな写真、なんか面白い写真まで、てんこ盛りである。こればっかりは文章ではどうも伝えられない!
フィロのスの「特異性」
現在のアイドル業界は極めて多種多様なグループが混在しているため、特徴を出すのは極めて難しい。個人的な意見だが、「恋愛ソングを中心としない尖ったアイドルらしくない楽曲」や「下ネタ等、アイドルらしくないトーク」や「ダイブやシャウト等のアイドルらしくないパフォーマンス」というものは最早、特徴とは言えないと感じる。
しかしフィロのスにはそういった、陳腐化した特徴とは別の「特異性」があるように感じる。それはこれまでもなんとなく感じていたが、今回のメンバーや加茂さんのインタビューを通してあぶりだされたように感じる。
着実な規模の拡大
一つ目の特異性が、現実的なキャパの箱でライブを打つということだ。これはオタクもメンバーも察していたし、なんならそれをもどかしく感じていた。具体的な規模の拡大の歴史をみてみよう*3。
2016年11月 原宿アストロホール(400人)
2017年 3月 渋谷WWW(450人)
2017年 7月 新宿BLAZE(800人)
2017年11月 渋谷CLUB QUATTRO(750人)
2018年 6月 恵比寿LIQUIDROOM(1000人)
2018年12月 品川ステラボール(1800人)
2019年12月 新木場STUDIO COAST(2400人)
このように、確かにBLAZEからリキッドルームあたりは全然拡大してない。これは確かにメンバーも不安になるよなぁ。
(十束)加茂さんにはもうちょっと大きいところを押さえてもいいんじゃないんですかっていうことはよく言っていました。メンバーともそういう話をしたことがありますし。毎月新曲を出す勢いはあるのにキャパは変わらないのかというのはずっと思ってました(笑)。
しかし、前述の加茂さんへのインタビューで、これはバンドに倣った戦略だということがわかった。こういった戦略をとっているアイドルはあまりいない。勢いがあるタイミングに合わせて、大きな箱を押さえて、そこを埋めるために頑張るのがセオリーだ*4。
そして今のところ、この戦略は上手くいっている。メジャーデビューが決まったこのタイミングで既に深夜の冠番組を持っているし、そうそうたる面子に囲まれたNHKの番組出演も達成した*5。この戦略は、高齢化するアイドル業界に一石を投じる有効なものとなるのではないか。
挫折を経ての「アイドル」
もう一つの特異性はメンバーのキャリア’(と年齢)だ。彼女たちは既に別の職種で挫折を経験して、セカンドキャリアとしてアイドルを選択した。中高生が多いアイドル業界では他の活動を経験しているケースは少ないし、年齢も若い。
マリリさんはバンドの解散やSSWとしての不遇の時代を経験したし、ハルちゃんもバンドのボーカルからの転身だ。おとはすは就職後挫折し、あんぬさんはオーディションに落ちまくった。
だからこそ、フィロのスメンバーに共通して感じられるのが、「仕事」としてアイドルを捉え、この先の活動に取り組む「覚悟」だ。もちろん、若いアイドルが持つ覚悟が偽だと言っているわけではない。ただ、彼女たちは社会をまだ知らず、広い世界を知った時にアイドル以外のセカンドキャリアを選ぶことは自然な流れだともいえる。
(日向)全員腹括ってますよ!このグループは歳も歳ですからね(笑)。私たちは次のステップとかじゃなくて、これが最終くらいの腹の括り方はしてると思います。
ジョジョの奇妙な冒険第5部では「覚悟」とはこう語られる。
フィロのスの「覚悟」は暗雲立ち込めるアイドル業界の荒野に道を切り開いてくれると信じている。
タイトルは、 「アイドル・フィロソフィー/フィロソフィーのダンス」より。
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