とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

アイドル機関説 〜現代アイドルの魅力の正体〜

最近、別ジャンル*1のファンの友人に言われた言葉が引っ掛かっていた。

認知されたら嬉しいっていうけど、なんか自分の事なんかに推しの脳を使わせるの申し訳なくない?

僕は全くこの感覚がピンと来なかった。なぜなら、地下アイドルたちがその辺にいるちょっと可愛い普通の女の子達であることを僕は知っているからだ。なぜ小娘たちにそこまで気を遣わなきゃいけないんだ!(失礼)

では、なぜ「その辺にいるちょっと可愛い普通の女の子達」に僕たちオタクは熱狂するのだろうか?

 

 

 

アイドルプロデューサーの意見

ゆっふぃーやフィロのスを手掛けたプロデューサー、加茂さんのnoteに興味深いことが書いてあった。

そもそも自分がクリエイティブに関わらないという設定になってるから、作品が素晴らしければ制作のプロセスは関係ありません。アイドルも関わるクリエイター達も自分の持っている一番の武器や強みを集めて作品作りをするわけですから相対的にではなく絶対的に最高のものが作れるシステムになってるわけです。

アイドル・プロデューサーほど楽しい仕事はない、Vol2.|加茂 啓太郎|note

また、tipToe.のプロデューサーである本間さんもTwitterで似たようなことを言っていた。

この二人のプロデューサーの共通点は、もともとバンド界隈出身ということだ。アイドルをクリエイター達のチームが作り出す「作品」として捉えているようだ。では、アイドルの活動を支える具体的なファクターを細分化してみよう。

 

アイドル本人に帰属しないファクター

音楽(作曲・編曲)

当然のことだが、アイドルのステージに音楽が重要なのは言うまでもない。そして、楽曲を作るのは職業作家たちだ。楽曲派オタク達が新曲発表の度に作曲者や編曲者を気にするのは当然のことだ*2

 

歌詞(作詞)

実は歌詞がアイドルのコンセプトを担うケースは多い。例えば、フィロのスのコンセプトには「歌詞に哲学的なメッセージを込める」ことが明記されており、グループ名にも「フィロソフィー」が入っていることから、歌詞の哲学性はグループの重要な要素だと言えるだろう。

悪くない恋がある なんてね、いいわけかも
当然のアブダクション ここはヒューリスティックの街

ヒューリスティック・シティ/フィロソフィーのダンス

 

振付

他の歌手の場合、バックダンサーを従えることはあっても本人が踊ることは稀だ。そのため、振付はあくまで添え物としての要素になっていることが多い。しかし「アイドル」という言葉を聴いた時に一般的に想像するのは歌とダンスのパフォーマーであり、振付は楽曲と同等に極めて重要なメッセージを持ち得る。

例えばでんぱ組.incなどの振付を担当するYumiko先生の振付は非常に独創的で、でんぱ組が作り出す世界の極めて重要な要素を担っている。実際、YouTubeの概要欄を見ると作曲作詞と並んでクレジットに記載されている。


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衣装

ここからがアイドル特有の要素だ。ロックバンドだとTシャツにジーパン等のラフな服装で演奏していることも多いが、アイドルはそうはいかない。「人は見た目が9割」という本が流行ったように、アイドルの衣装というのはグループの雰囲気をパッと伝えるのに非常に重要な役割を果たす。

例えばディアステージ所属のCYNHNというアイドルグループがいる。グループ名はロシア語で「青」を意味しているが、その衣装はいつも青を基調にしたお洒落なものだ。

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照明

ライブを構成する重要なファクターの一つに照明がある。照明がバチっと決まるとステージの完成度は格段に上がる。例えば、ギュウ農フェスではレーザーを多用した演出がかっこいい。サイケデリックトランス・アイドルのMIGMA SHELTERのステージにおけるレーザー演出(下記動画の7:26~)は彼女たちのステージの”トランス感”を一段高みに連れて行っていると思う。


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演劇

ライブのコンセプトとして、演劇的な要素を取り込むこともある。例えばnuanceのワンマンライブでは本職の役者さんを案内人ならぬ「アヌュナイ人」として登場させて演劇のような独創的な演出がなされる。 


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アートワーク

CDのジャケット写真等のアートワークもアイドルの世界観の演出に一役買う。tipToe.の1期では長谷川圭佑さんという写真家の方がその世界観の構築に重要な役割を果たした。

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”機関”としてのアイドル

ここで挙げたのはあくまで、アイドルを構成する要素の代表的なものに過ぎない。このように、アイドルはその裏側*3にいる多数のクリエイターたちが作り上げたものを表現する”機関”と言えるのではないだろうか。

大日本帝国憲法下では、「天皇機関説」「天皇主権説」という対立する2つの学説が唱えられた。冒頭に書いた友人にとっては、推しは絶対視される”神”的な存在であるのに対し、僕にとってはアイドルを”機関”として捉えているのだ*4。即ち、僕にとって「アイドルを推す」ということは、その女の子個人の応援を意味するものではない。

大日本帝国憲法下で確立された憲法学説で、統治権は法人たる国家にあり、天皇はその最高機関として、内閣をはじめとする他の機関からの輔弼を得ながら統治権を行使すると説いたものである。ドイツの公法学者ゲオルク・イェリネックに代表される国家法人説に基づき、憲法学者美濃部達吉らが主張した学説で、天皇主権説(穂積八束上杉慎吉らが主張)などと対立する。

天皇機関説 - Wikipedia

 

 

アイドル本人に帰属するファクター

ということを書くと、僕は”機関”に過ぎないアイドル本人を重要視していないという印象を与えかねないが、全くの誤りだ。アイドルは一つの”機関”に過ぎないとしても、プロジェクトの成否を左右する最重要ファクターだ。では、アイドル本人に帰属するファクターとしては何があるだろうか。

 

パフォーマンススキル

真っ先に出てくるのが彼女たちのパフォーマンススキルだろう。楽曲や振付がどれだけ素晴らしいものだったとしても、それを表現するには一定のスキルが必要だ。音源を聴いて気になってライブに参加してみたものの、パフォーマンスがショボすぎて現場には通わない、というのは往々にして起きる現象だ。

 

容姿

あんまり言うとルッキズムだ!という謗りを受けそうだが、実際問題としてアイドルの容姿は重要なファクターだ。橋本環奈さんの成功等はその最たるもので、ここまで全国区のタレントになったのは彼女の容姿による部分が大きいだろう。もちろん容姿さえ良ければやっていける、とは思わないが。

 

顧客とのコネクション

現代のアイドルは単なるパフォーマー以上の役割を求められる。彼女たちは特典会や握手会などでオタクとのコミュニケーションという重要な役割を担う。さらにこのインターネット社会ではSNSでのオタクとの交流も発生する。そして、このコミュニケーションの比重を重くして過激なやり方を採用したりすると、”キャバクラ”等と揶揄されることになる*5

かくいう僕も楽曲派のフリをしているが、本当に楽曲だけを重視するなら特典会なんて行かなくてもいいはずだ。アイドルとのコネクションを持てるというのはオタクにとってとても楽しいことなのだ。

 

”物語”の体現

前述のパフォーマンス、コミュニケーションはあくまで一時点におけるものを想定している。しかし、現代アイドルにおいて最も重要なのは一説では”物語性”だといわれる。

例えば、連続的にそのパフォーマンススキルが向上していく様を見せたり、オタクと継続的なコミュニケーションをとることで、そこに”物語”が生まれる。昔は上手く歌えなくて悔し涙を流していたあの子がこんなに大きなステージで堂々と歌っている…みたいなエモさは地下アイドルオタクをやっているとわかるだろう。

つまり、アイドルたちの生き様とそこから生まれる”物語”もアイドル本人に帰属する重要なファクターと言えるだろう。

 

卒業したアイドルに興味が持てない理由

ナタリーで連載されている佐々木敦さん、南波一海さんによる連載の、劔樹人さん・ぱいぱいでか美さんゲスト会でハロプロを卒業したメンバーへの興味が薄れてしまうことを問題視する意見があった。

(劔)ハロプロを辞めたメンバーへの興味が薄れてしまう人が多すぎると思うんです。ただそれは、実は人よりも箱そのものにファンが付いているというシステムゆえに仕方ない部分があるから、非常に難しいんですよね。ファンがみんな卒業した人に付いて行ったら、ハロプロ自体は20年以上も存続しないですから。かといって卒業したメンバーには、自分の魅力が結局若さゆえだったとは感じてほしくないなって。

劔樹人&ぱいぱいでか美とアイドルファンの未来を考える | 佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 4回目 後編 - 音楽ナタリー

めっちゃわかる。僕も同じで、推しグループを卒業した後も個人で活動を続けるアイドル達に本当に興味を持てないのだ。ギリギリTwitterでフォローしているが、ライブなんて全然行こうと思わない。これは、やはり僕がアイドルをクリエイターたちの”機関”として捉えていることの証左だろう。アイドル本人に帰属するファクターだけでは、興味が持てないのだ。

 

まとめ

このように、現代アイドルの魅力の中には、アイドル本人に帰属するものとそうではないものが混在している。そのどの部分に比重を置くかは個々のオタクのスタンスによる。

そして、アイドル本人に帰属する部分の重要性も理解しているが、僕は比較的アイドル本人に帰属しない部分に魅力を感じることが多い。

逆に言うと、だからこそ普通の女の子でもアイドルをやっている間は輝けるのである。

*1:有名女優

*2:そして、僕が最も重視するのもこの要素だ

*3:最近は結構表側にも出てくるが

*4:弾圧しないでね!

*5:ハウプトとかは解散した今なお、特典会が定期的に炎上している