とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

僕らの夢はいつもかなわない ~Maison book girlの「削除」に寄せて~

2021年5月30日、Maison book girlが「削除」された。その時は突然訪れた。

 

f:id:kamaidol:20210531183100p:image

 

 

ブクガとの出会い

存在を知ったきっかけ自体は忘れてしまったが、ブクガの音楽性に興味を持ち、アルバムimageを購入したのが僕とブクガの出会いだった。

実際にパフォーマンスを見ることになったのは2017年のアイドル横丁夏祭りだった。その不思議な雰囲気に徐々に惹かれ始めた*1僕はその年の暮れにZepp Divercityで行われたワンマンライブSolitude Hotel 4Fに参加し、衝撃を受ける。この日の公演は歴代ブクガワンマンの中でも屈指の難解さを誇るものだったのだ。

こうして終演を迎えた『Solitude HOTEL 4F』。最高の音楽体験だったのは勿論だが、演劇的でもあり、覗き込んだ万華鏡のようでもあり、迷い込んだ異世界のようでもあった。このレポートを書いている時点で終演から数時間しか経っておらず、私もまだ完全に咀嚼しきれていないが、さらに何度も思い返すことによって、様々な発見、解釈、妄想ができそうだ。

【ライブレポート】Maison book girl『Solitude HOTEL 4F』 - レポート | Rooftop

それを最初のワンマンとして体験してしまった僕の脳内は?マークで満たされた。しかし、そんなブクガに惹きつけられてしまった僕はこの後、定期的にブクガ現場に足を運ぶようになる。ワンマンとしては4F、5F、6F(hiru)、7F、∞F、Solitude box online、9Fに参加した。

 

ブクガの特異性

ブクガは極めて特異なアイドルだった*2。その特異性がどこに起因するのか考えてみると、客観的な要素としてアイドル楽曲特有のコールが入らない点や変拍子を多用する曲調、メンバーを排除したアートワーク等が挙げられるだろう。しかし、僕が最も特異性を感じるのはは主観的なファクター、「ライブ鑑賞時の僕自身の意識」だ。

僕は基本的にアイドルのライブに参加する時「楽しい気持ちになりたい」と思っているし、そう思えるようなアイドルのライブに行く。しかし、ブクガのライブに行く時だけは違う。「楽しもう!」という気持ちで行くことはないし、終わった後に「あー楽しかった!」と思うこともない。

ブクガのワンマンライブは基本的に難解である。急に停止する楽曲、謎に配置される小物、やたら出てくるペストマスクの人間、首がなかったり首だけだったりする鳥。。。ライブ後は、今日もわけわからんかったな…と思いながら帰途につくことが多い。一生懸命解釈するのも面白いだろうが僕は細かいことに気づけるタイプのオタクではないのだ。

解釈をあきらめた僕は、ブクガのライブでは「感覚」を重視することにした。なんか怖い、なんか寂しい、なんか心打たれる…そういう「感覚」だ。そして、得られる「感覚」はアイドルのライブに特有なポジティブなものからは程遠い一方で、非常に心揺さぶるものである。そこが僕にとって最大のブクガの特異性だった。

 

唐突な「削除」

一般的にはアイドルが解散・活動終了する時というのは前々から告知があり*3、当日にはオタクやメンバーやスタッフに対して感謝の手紙なんかが読まれたりするものだ。

しかし、今回のブクガの活動終了は唐突なものだった。

ブクガは本日5月30日に千葉・舞浜アンフィシアターでワンマンライブ「Solitude HOTEL」を開催。この公演の終了後、会場では謎のリンクURLが書かれた紙が配布された。リンク先には「Maison book girlは削除されました。」と記載されており、グループの活動終了を告げるページとなっていた。

Maison book girl活動終了 - 音楽ナタリー

唐突と言ったが、存在しないエラーコードを示す"404"が含まれた公演タイトル、ブクガの公式Twitterで日々更新される不穏なカウントダウン、徐々に崩壊していくWebサイトなど各所に「匂わせ」はあった。しかし、悲しいことに僕はそういった匂わせには鈍感なオタクだ。活動終了なんてことは露程も考えなかったし、相変わらず手の込んだ事やってんな~くらいに思っていた。

そのため僕は、この日はZepp Divercity*4から豊洲Pit*5に現場を回しており、ブクガ最後の公演を干してしまったのだ。そして、家に帰ってTwitterのタイムラインに流れたナタリーの記事を見てパニックに陥った。

え、なんで???活動終了なんて言ってなかったじゃないか。干しちゃったじゃないか。。。てか、そもそも何で活動終了するんだ。4Fからずっと見てきたのに俺はもう一生ブクガのライブ見られないのか?嫌だ。というか今日はどんなライブだったのだ?え、なんで???

頭の中をそんな考えがグルグルした。

 

Solitude Hotel(404) 配信

しかし、このコロナ禍のため、幸いにも配信ライブがライブ後も購入可能だった。Blu-rayも発売されるようだが、ブクガの最後の姿を早く見たかったので、購入した*6

(ナタリーでライブレポートが上がったので追記しました。)

削除されたMaison book girl、最後のステージで何が起きたのか(ライブレポート / 写真40枚) - 音楽ナタリー

 

4Fの再現

冒頭はSEとともに、ペストマスクを被った人が現れ、落ちている紙を拾う。スクリーンを無機質な青色が埋め尽くし、中心にはブクガのWebサイトのURLが映し出される。

そして、廃墟となった遊園地の映像が映し出され、浮かび上がる”Solitude Hotel 4F”の文字。奇しくも僕の思い出のSolitude Hotel 4Fを再現する構成のようだ。ステージは4Fのセトリの通り進行していく。veranda好きなので最後に聞きたかったな…bedが終わったところでMCが入る。この公演ももう少し早くやる予定だった、という旨のことを話して矢川さんが言う。「それでは次の曲、聞いてください。cloudy irony

しかし、cloudy ironyは始まらない。始まったのはkarmaだ。4Fとはここで分岐する。映像が乱れ始める。見えるのは舞台を覆う紗幕だ。。こんなの今までなかったよな?そして紗幕の後ろでブクガがパフォーマンスを続ける中、ステージ前方に座り込んでいる人たちの存在に気付く。前に座り込んでいるのは、白い衣装を着たブクガのメンバーだ…。じゃあ後ろで踊り続けているのは誰なんだ?ついさっきまで別衣装でパフォーマンスしていただろう?*7
そして、スクリーンに映されたSolitude Hotelという文字が崩壊していく。

 

本編(?)

僕の混乱をよそに、ステージでは海辺にてが始まる。これも好きな曲だ。次のレインコートと首のない鳥では、中央から4人のフードを被った4F衣装のブクガのドッペルゲンガーが現れ8人のパフォーマンスが始まる。ドッペルゲンガーたちは、闇色の朝でステージから消えていく。

次いで新作のポエトリーリーディングが始まり、「物語は巻き戻った」というフレーズで終わる(追記:前述のレポートの通り、新作じゃありませんでした)。長い夜が明けて。この曲を聴くと7Fを思い出す。狭い物語十六歳といった代表曲を確かなパフォーマンスで見せつけ、ライブは終盤へと突入する。

 

終焉、そして「削除」

静かなキーボードの音から始まるのは集大成とも呼べる、Fictionだ。次いでこの日2度目のポエトリーリーディングnon Fictionが終わり、ステージに鳴り響いていた不愉快な機械音が止まると同時に銀テープが飛び出す。

ステージから消えていたメンバーが再び現れbath roomのトラックが流れ始める。そして4人が歌い始める。メロディも歌詞も違う…何が起きているんだ?崩壊したbath roomが終わり、ステージが暗転する。そしてステージは暗転したままlast sceneが始まる。そして、サビまで歌ったところでステージが徐々に明るくなり、メンバーの姿が消えていたことがわかる。その瞬間、突然音が止まり、客席が明転して公演は終わりを告げた*8

 

やっぱりブクガのライブは最後までわけわからなかった。ライブに関する感想をパブサしてみたが、現地で参加したオタクも当惑しているようだった。僕はこのライブに参加したかったが、参加したところで何かに納得することはできなかっただろう。

 

Maison book girl”という作品

ブクガの「誠実さ」

今回のブクガの事前発表なしの活動終了に対して、一部では批判的な声が見られた*9。確かに僕は突然の出来事にショックを受けているし、喪失感を感じている。先に言ってくれたらこっちの現場を優先したのに、と悔しく思っているし、なんだったらちょっと怒っている。

しかしそれと同時に、なんてブクガらしい終わり方なんだろう、と思ってしまっている。今回ブクガが徹底して描き出した「削除」という作品に、これだけ心を動かされている。僕はこんな形で活動終了してほしくなかったが、活動終了するならこんな形で終わってほしかった。

Maison book girlの「削除」は、オタクに対してある意味で不誠実である*10と同時に、極めて誠実な作品だった。

 

 

 

「削除」の完成

ブクガは削除された。メンバーのブログも消えた。僕は「削除」に立ち会えなかったことを悔やみ続けるだろう。沢山の好きな曲があり、もう一度生でブクガのステージを見たい。

削除されたブクガはどうなるのだろうか。しかし「削除」されたのだから簡単に再結成なんかしないでほしい。ブクガの曲はもう歌われないで欲しい*11。でもやっぱり聞きたい。そうやって昨日からずっと逡巡している。

 

 

僕はMaison book girlのそんなところが好きだった。

この気持ちはきっと削除できない。

 

 

 

 

*1:あと、矢川さんめっちゃタイプだった。

*2:まぁアイドルかどうかはよくわからないのだが僕はアイドルだと思っている

*3:大体は「大切なお知らせ」というタイトルで告知がされる。心臓に悪いタイトルである。

*4:@JAMスーパーライブ

*5:リリスクのワンマン

*6:たまたま月曜に休暇を取っていてよかった…

*7:考えられるのは、そもそも4Fパートは別撮りで先に撮影して、配信だけはそっちを流していた、とかだろうか(追記:正解でした)。MC時に一切拍手が聞こえなかったことに違和感を感じている(追記:こっちは僕の考えすぎ?オタクMCくらいは拍手しても良いんじゃない?)。

*8:ここですぐに拍手できるオタク、調教されすぎだろ…

*9:ブクガを叩くというか、さすがにこの終わり方はファンにとってキツいでしょ…という同情の声だ

*10:しかも、僕と違ってちゃんと追っかけてたオタクは薄々感づいていたようだし、不誠実とは言い切れないだろう

*11:とか言って再結成したら普通にチケット申し込むけどね…