とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

アイドルの恋愛禁止は時代遅れか

アイドルに恋愛禁止ルールを強いることの是非が話題になっている。非常に論じやすいテーマであるがゆえに、アイドルオタクやアイドル本人、業界関係者、一般人など色んな人が色んな意見を言っているが、改めて考えてみよう。

f:id:kamaidol:20210214200922j:plain

 

今更ながらこんなことが話題に上がっているのは、ハロー!プロジェクトのアイドルJuice=Juiceに所属する高木紗友希さんがシンガーソングライターの男性との同棲を文春にすっぱ抜かれた結果、同グループでの活動を終了させることとなったからだ。

今回報道されていることについて、高木本人から急遽説明を受けました。
その上でハロー!プロジェクトのメンバーとして、自覚を欠いていると総合的に判断し、今回の結論に至りました。

ニュース詳細|ハロー!プロジェクト オフィシャルサイト

僕はハロオタではなく、ハロプロにおける恋愛禁止ルールの適用状況*1を知らないので、この件について良いとか悪いとかいうつもりはない。また、今回の件については、コロナ禍で不要な外出を避けることが要請されている状況も関係あるかもしれない。

ここでは一般論として「アイドル」と「恋愛禁止」ルールを考えてみたい。まず、大きく分けて2つの論点がある。事務所が決めた「ルールとしての恋愛禁止」の話と、ルールがなかったとしてアイドルは恋愛を自重するべきか、という「職業倫理としての恋愛禁止」の話だ。

 

 

ルールとしての「恋愛禁止」

恋愛禁止ルールの合理性

事務所が定める恋愛禁止ルールにはそもそもどういう効果があるのだろうか?ここに関しては明確だ。アイドルに彼氏がいたことが発覚した場合は、一定数オタクが離れてしまう。アイドルに疑似恋愛的要素が含まれる以上それは避けようのないことだ。

また、事務所にとって、アイドルが恋愛することによるメリットはあまり感じられないだろう。「恋したら綺麗になる」なんてことが言われるが、メイクに力を入れる方がよっぽど簡単だ。

オタクの減少はすなわち収益性の低下なので、恋愛禁止ルールを設けることについては、事務所側には一定の合理性がありそうだ。一方で問題になるのは、そのルールが人権侵害で無効なものではないか?ということだ。

 

法的な有効性

アイドルの恋愛禁止ルールの法的な有効性について調べてみたところ、2つの判例が出ているようだ。まずはその有効性を認める平成27年9月18日東京地裁判例だ。

本件グループはアイドルグループである以上、メンバーが男性ファンらから支持を獲得し、チケットやグッズ等を多く購入してもらうためには、メンバーが異性と交際を行わないことや、これを担保するためにメンバーに対し交際禁止条項を課すことが必要だったとの事実が認められる。

少女の人権を無視・アイドル交際禁止違反で賠償を命じた非常識な東京地裁判決はこのままでよいのか(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

それから1年もたたず、平成28年1月18日東京地裁判例では、有効性を制限する判例が出ている*2判例も揺蕩っているということだ。

他人に対する感情は人としての本質の一つであり、恋愛感情もその重要な一つであるから、かかる感情の具体的表れとしての異性との交際、さらには当該異性との性的な関係を持つことは、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ、異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない事由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものと解される。とすると、少なくとも、損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは(中略)いささか行き過ぎな感は否めず、芸能プロダクションが、契約に基づき、アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に、所属アイドルに対して、損害賠償を請求することは、上記自由を著しく制約するものといえる。

「恋愛は幸福追求権」アイドル交際禁止違反で賠償請求棄却した東京地裁判決を受け、ブラックな業態は改革を(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース

また、昨年出版されて話題になった『地下アイドルの法律相談』には次の記載がある。著者の深井先生は無効派のようだ。とはいえ、「あり得る」という記載をしているあたり、断定はできないと認識されているのだろう。

恋愛禁止を破ったことを理由に、解雇されたんだけど、その解雇は有効?

・違法なこと、社会常識に反すること、重要な権利を制限する契約は無効になる。

・恋愛を禁止する契約は、幸福を追求するために重要な権利を制限する内容なので、無効になる場合もあり得る。

深井剛志、姫乃たま、西島大介(2020)『地下アイドルの法律相談』日本加除出版

このように、法的な有効性について確定的な見方があるわけではないが、こういった潮流を考えると、やはり契約書で恋愛禁止を定めるのは難しくなっていくと考える。

 

結論

結論、というか僕個人の考えだが、恋愛禁止ルールには反対だ。他人の恋愛をルールで禁止するというのはやはり許されることではないと考える。恋愛は「感情」であり、禁止していい類のものではない。

 

職業倫理としての「恋愛禁止」

明文化されたルールとしての恋愛禁止の次に問題になるのは、職業倫理としての恋愛禁止だ。例えば乃木坂46白石麻衣は恋愛スキャンダルに見舞われることなくアイドル人生を全うしたが、そもそもアイドルは恋愛を自重するべきなのか?

明石家さんまの言葉

こういった時に良く引用される言葉に、さんまさんが道重さゆみに言ったとされる次の言葉がある。

『明日大阪で握手会、明後日仙台で握手会、来てね』って言って、飛んできてくれる男なんておれへん。彼氏だって旦那だって、そんな男いない。

ファンだけや、そんな我儘についてきてくれるのは。だからアイドルの恋は隠さなあかん。それがファンへの誠意や。

ホンマに言ったんか?と思って調べてみたところ、音源が見つかった。言葉は少し違うが、概ねそういった内容は言っているようだ。確かに、そこまで尽くしてくれる彼氏というのはなかなかいないだろうが、だから恋を隠せ、ファンを彼氏だと思え、というのは少し論理の飛躍があるようにも感じられる。

www.youtube.com

 

ファンならアイドルの幸せを願うべきか

一方で、最近よく見られる言説として、ファンなら推しの幸せを願うべき、即ち恋愛を許容すべき、という意見である。そこまで踏み込んだものではないが、犬山紙子さんは元アンジュルム和田彩花さんとの対談で次のように発言している。

推しが幸せであってくれることが一番の喜びであるはずなのに、未成年の子に対して大人が激しく詰め寄ったり、コメントしたりするのを目にすると、本当に悲しくなる。

和田彩花(アイドル)「アイドルが人として生きやすくなるためには」:犬山紙子対談 | nippon.com

おっしゃるとおり・・・だろうか?僕らオタクがアイドルに求めているものは、本当に「推しの幸せ」だけなのか?

 

オタクがアイドルに求めるもの

僕が推しのアイドル、たとえばエビ中やフィロのスに求めるものは彼女たちの「幸せ」だけなのだろうか?たぶんYESとは言い切れない。

僕が彼女たちを推している理由の多くを占めているのはその音楽性やステージパフォーマンスである。例えば、エビ中が音楽活動を止めてテレビ中心でやっていくという方向転換をしたり、マリリさんがグラビア1本でやっていく、と決めたとしたら、彼女たちの「幸せ」にはもう興味を失ってしまうだろう。僕が願うのは「推しの幸せ」ではなく、「僕が好きな音楽の表現者であるという前提での、推しの幸せ」だ*3

そして、それはガチ恋の人達にとっても同じだ。彼らが願うのは「誰かのものになっていないという前提での、推しの幸せ」だ。そりゃあ恋している相手に彼氏がいたら嫌になっちゃうだろう。

このように、僕らがアイドルを推す時には一定の前提があり、その前提を覆す場合でもすべてを受け入れろ、と要求するのはアイドル側の傲慢だ。僕らが彼女らの音楽性や恋愛感情に口を出す権利はないが、彼女らの選択を受け入れない権利はある。

 

結論 

アイドルはここ10年で非常に多様化した。さんまさんの意見は、アイドルに強い清純性が求められた時代では正しいものだったと感じるが、今なお、アイドルは恋愛を自重するべきだろうか。

僕は、そのアイドルの特徴によると思う。

オタク一人一人がアイドル一人一人に求めるものは違う。しかし、その中でも傾向というものがある。ガチ恋が多いアイドルに求められるものは「恋愛をしないこと」であり、その場合はやはり恋愛は自重するべきだ。一方で、「楽曲の良さ」や「ステージパフォーマンス」が求められているようなアイドルにまで恋愛の自重を求めるのは行き過ぎだと思う。

アイドルが多様化した現在、すべてのアイドルが恋愛を自重するべきだ、という考えは確かに時代遅れだと思うが、疑似恋愛性を売りにしてそれを求めた顧客が集まっているようなグループであれば、 やはり恋愛は自重するべきだ*4。そして、恋愛をしたいのであれば運営やアイドルはそれ以外の方法で顧客たるオタクを惹きつける努力をする必要がある。

しかし、いかにパフォーマンスを磨いてもきっとガチ恋オタクは現れるし、恋愛をしてそれを公表するということは、彼らを傷つけるという現実がある。これは別に誰かが悪いという話ではなく、アイドルとはそういう業の深い職業だということだ*5

 

 

地下アイドルの絵恋ちゃんのコラムに印象的な一節があった。きっと「二人の問題」を一般化して結論付けることに意味なんてないのだろう*6

アイドルに興味がない一般の方からすると、アイドルとは言え他人の恋愛。「二人の問題」なんだから…と呆れるかもしれません。ですが一人のアイドルのスキャンダルは、すべてのアイドルとアイドルファンがお互いのスタンスを確認する大事な機会でもあるのです。これもアイドルを応援したことがない人にはわからない感覚かと思いますが、アイドルは、アイドル一人とたくさんのファン、ではなく、アイドル一人とファン一人がたくさん、という関係性です。アイドルとファンは常に一対一で、これもまた別の「二人の問題」なのです。

第6回「人それぞれ」 - コラム | Rooftop

 

 

 

アイドルと恋愛に関する過去エントリはこちら。

idol-consideration.hatenablog.com

idol-consideration.hatenablog.com

idol-consideration.hatenablog.com

 

 

*1:外部に明示されたルールではないようだが、内部的にあるのか、またどの程度厳しいのか、等

*2:特定の場合には認めるべき、という判例なので完全に無効だと認定されたわけではない

*3:現に、僕は元エビ中・ぁぃぁぃの幸せについてあまり興味を持っていない。もちろん幸せであればいいなぁとは思うが、自分が金や時間を費やして応援する気はない

*4:ちなみに最近のハロプロガチ恋が少なめだと思うので、別にいいんじゃね・・と思う

*5:そして、その恋愛感情がオタクの生きる糧になってたりもするから、一概にガチ恋オタクを作ることが間違いだとも言えないんだよなぁ…

*6:そんな意味のない話を4000文字も書いちゃったのだが