とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

『地下アイドルの法律相談』書評

先日、吉田豪さんのツイートで興味深い本が出版されることを知った。その名も『地下アイドルの法律相談』。地下アイドルと法律について解説した書籍である。

www.kajo.co.jp

 

法曹界へ進む道は早々にあきらめたのだが、実は僕は元法学部生だ。また、社会人になってからも仕事柄、様々な法律のことを調査したり学んだりする機会があった。なので、一般人よりは多少法律に詳しい人間だと自負している。

早速アマゾンで購入し読んでみた。最初のQAは下記文章で始まった。

人と人との間で結ぶ決まりごとを契約といいます。例えば、一人暮らしをするときに、アパートなどを借りることがあると思いますが、その時に大家さんと”お金を払う代わりに部屋を貸してもらう”という約束をします。これが契約です。

めちゃくちゃ簡単だ・・・

僕がイメージする「法律の本」というものは、大体500頁くらいはあるし、内容も専門用語まみれで難解だ。イラストはなく、概念化されたオブジェクトが最低限あるだけで、表紙にはだいたい無機質な図形が描かれている。だいたいこんな↓↓↓感じである。確かにそれに比べれば簡単に決まっている。

民法I 第4版: 総則・物権総論

民法I 第4版: 総則・物権総論

  • 作者:内田 貴
  • 発売日: 2008/04/03
  • メディア: 単行本
 

 

この粒度で内容は足りているのか、そういう懸念を持ちながらも僕は読み進めた。すると、この本は平易な文章を用いて一般人(特にアイドル本人)にも読みやすく工夫されている上に、アイドル業界で問題となる内容をきちんと押さえられているように感じた。

 

 

全体の構成

この本は10章に分かれており、各章の最初にイントロとなる漫画があり、その後にいくつかのQA(深井先生の解説)が掲載されている。そして、章の間には姫乃たまさんのコラムが挿入されている。そして最後には参考として実際の契約書の条項例や、判例が紹介されている。

各章は「地下アイドルと契約書のはなし」「地下アイドルとお金のはなし」「地下アイドルと仕事のはなし」「地下アイドルと禁止事項のはなし」「地下アイドルと契約期間のはなし」「地下アイドルと損害賠償のはなし」「地下アイドルと移籍のはなし」「地下アイドルとハラスメントのはなし」「地下アイドルとファンとのトラブルのはなし」、と括られている。

 

アイドル本人にとって

最もこの本を読むべきなのは、間違いなくアイドル本人だ。この本のメインコンテンツは事務所とアイドル間のトラブルに関する法的論点についてであり、事務所側からの過大な要求や不当な契約内容に関するものが大半だ。若いアイドルと事務所の関係は概して、事務所側の力が強いことが多いので当然だろう。

下記に抜粋した疑問のうち、実際に現役アイドルが疑問に思っているものもあるのではないだろうか?こういった疑問に対する法的な答えをアイドル自身が理解することは業界健全化に向けて非常に意義のあることだと思う。

  • 契約をするときに気を付けることは?
  • 交通費や衣装代は、アイドルが負担すべきもの?
  • 水着撮影の仕事が来たんだけど、やらなきゃいけないの?
  • 恋愛禁止を破ったことを理由に、損害賠償金を支払えと言われたんだけど、支払わなければいけない?
  • 体調が悪くてライブを休んだら、事務所から損害賠償請求されたけど、これは払わなければいけない?

 

アイドルの親にとって

本人が理解しておくのがベストだろう、と書いた一方で、高校生や中学生に対して、法律を理解して事務所と戦えというのは少々無理がある。そう考えたときに、アイドルの親はアイドルを取り巻く法律を知ることで娘を悪徳事務所から守るべきだ。

 

事務所にとって

事務所にとってもアイドルにかかわる法制を理解することはリスク軽減の意味がある。アイドルの一部は未成年者であり、未成年者の意思表示は親権者によって取消が可能である。つまり、親権者の同意なくなされた契約は取り消されてしまうことがあり、事務所側としてもリスクを抱えるということだ。

アイドルと事務所の関係は、基本的に事務所が優位に立っているが、稀にとんでもなく素行が悪いアイドルもいる。そういうアイドルに事務所が対処するためにも、きちんと法律を理解し、適切な契約を結ぶことは重要だろう。

 

オタクにとって

まぁ・・・特に読む必要はないだろう。よっぽどの厄介オタクでない限り、アイドルを推すのに法律の知識は必要ではない。

 

  

深井先生が「はじめに」で述べられていたことに共感できた。どうか、アイドルたちが長く活動できる健全な業界に変わっていってほしいものだ。

このように現代におけるアイドルの役割は、多くのファンに活力を与えてくれる、心のオアシスのようなものだと思います。アイドルは、そのような存在であるからこそ、活動に持続可能性が必要です。

 

もし、現役地下アイドルの方がこのブログを読んでいれば、是非この本を読んでいただきたい。また、オタクの方は推しに勧めてみてはいかがだろうか。 

地下アイドルの法律相談

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