先日、2年ぶりに声出し現場に参加した*1。福島・三崎公園で行われた『リーディングエクストロメ』だ*2。
NUANCE、ukka、ヤなことそっとミュート、クマリデパート、fishbowl、きのホ。、SANDAL TELEPHONE、Ringwanderung 、RAY、situasion、美味しい曖昧、等々…推してるグループがたくさん出演するイベントだ。何とかして行きたいと思ったが、一つの問題にぶち当たる。会場の交通の便が悪すぎる!
このイベントが行われる三崎公園野外音楽堂へ公共交通機関を利用していこうと思ったら、電車で常磐線・泉駅まで行き、そこからバスで移動したうえで更にそこから徒歩20分かかるという便の悪さ。さすがにめんどくさすぎる…ということで、僕は車で行くことを検討したがここでも問題がある。僕は旅行の時などはレンタカーを運転することもあるが、運転自体には慣れておらず、長時間の一人のドライブ*3に自信がなかったし、一人でレンタカーを借りるのはお財布的にもしんどかった。そういうわけで僕はアイドルオタクでも何でもない友人を強引に誘って、このイベントに参加することにした。
野外でイキイキと歌い踊るアイドル達のパフォーマンスは本当に素晴らしかった。そして、このイベントの最大と言ってもいい特徴は「声出し可」ということだ。「左右の森に向かってあるいは地面に向かって」というレギュレーション付きではあるものの、声出し可のライブは僕にとって実に2年半ぶり!帰り道、運転しながら興奮気味に僕は友人に声出し可イベントのすばらしさについて語っていたが、そこで友人にこう言われた。
コールってうるさくね?アイドルの歌聞きに行ってんじゃないの?
まぁ…確かにそうだ。僕はアイドル文化に慣れすぎて、コールがあるライブが当然だと思っていたが、僕らオタクはなぜアイドルにコールをするのだろうか?改めて考えてみた。
オタク側の理由
大きい声を出すことの爽快感
まず、シンプルに言えることとしては「大きい声を出すのは楽しい」ということだ。大人になると、日常的に大きい声を出すシーンはほとんどない。僕のようなホワイトカラーワーカーだと特にそうだ。
そんな中思いっきり大きい声を出せるというのはストレス発散になる。カラオケで思いっきり歌うのも似たものだろう。
気持ちいいコールといえば、ベイビーレイズJAPANの「夜明けBrand New Days」の「イエッタイガー」だろう。これを大声で叫ぶのは最高に気持ちいい。
フロアの一体感
大きな声で叫ぶこと自体楽しいが、皆で叫ぶともっと楽しい。マズローは欲求を5段階に分類して、その3つ目に「社会的欲求」を据えた。みんなでコールを叫ぶ行為というのはこの「所属する欲求」を満たせるものだ。
社会的欲求とは、家族や組織など、何らかの社会集団に所属して安心感を得たいという欲求を指します。所属と愛の欲求と呼ばれることもあります。
マズローの欲求5段階説とは? 知っておくべき心理の法則 - STUDY HACKER(スタディーハッカー)|社会人の勉強法&英語学習
特に地下アイドル現場特有の特殊MIXや特殊な口上を言うためには、それを「覚えていること」「タイミングを知っていること」という要件を満たす必要がある。でんぱ組.incのライブなどで見られる「口上」は、これだけ規模が大きくなっていてもその「社会的欲求」を満たすことができる稀有な例だ。
音楽に参加する楽しさ
僕が推しているアイドルは「楽曲派」とくくられることが多いが、そういったアイドルを推すオタクは基本的に音楽が好きだ。なので、アイドルの音楽的表現に自分も参加できるとしたらこんなに楽しいことはない。現場に通ってるわけではないので詳細はわからないが、3776現場では、リコーダーというオタ芸*4があるようだ。
3年ぶりのオタ芸「リコーダー」 pic.twitter.com/cCvxW2YiHm
— キムラKスケ (@kskkmr0120) 2022年6月12日
ここまでガチで音楽に参加する例はあまりないが、アイドル現場では結構複雑なクラップを要求されることがある。ブクガやクマリに代表されるサクライケンタ楽曲のクラップは一定程度練習しないとついていけないくらい難しい。このクラップという行為やタイミングよくコールをする行為自体も音楽への参加と言えるだろう。これによってオタクは音楽を鑑賞する楽しみから、音楽へ参加する楽しみにシフトしているとも言える。
アイドルに起因する理由
アウェイ現場等でのエールとしてのコール
ここまではオタクが気持ちよくなるため、楽しくなるためのコールについて整理してみたが、一方でコールは演者側、即ちアイドル達にとっても必要なものだと僕は考えている。
現在、地下アイドルが出演するライブの多くは「対バン」と呼ばれる複数グループが参加する形式のものだ。そして、対バンでは必然的にフロアにはいろんなグループのオタクが混在する状況になる。そういった場合にコールの音量というのはフロアの盛り上がりの指標となる。つまり、コールをすることは、「俺たち盛り上がってるよ!いいライブだよ!」というオタクからアイドルへのメッセージの意味を持っているのだ。
特に、「アウェイ現場」と呼ばれるアイドル以外のアーティストが多く出演する等でアイドルオタクがマイノリティとなる現場においてのコールはこの意味合いが大きくなる。コールはアウェイ現場で「自分達のファンはいるだろうか…」と不安になるアイドルに対して「俺たちはここにいるよ」という精いっぱいのエールなのだ。
アイドルに対するモチベート
では、ワンマンライブ等のように、そのファンしかいない場においてはエールとしてのコールは不要だろうか?全くそんなことはない。
アイドルのパフォーマンスにはブレがある。もちろんグループによって差はあるが、アイドルのライブは安定して80点をとるものではなく30点の日と150点の日があって、僕は150点の日を求めて現場に通っているところがある。
そして僕は150点を出すためにはオタクのコール(≒フロアの熱量)が必須条件だと考えている。アイドルが良いパフォーマンスをして、それに呼応するようにアツいコールが入り、さらにそれに応えてアイドルが気分を上げてより良いパフォーマンスになっていく…というようなアイドルとオタクによる相乗効果があるのだ。
例えばこのDorothy Little Happyの「恋は走り出した」の動画はその好例といえるだろう*5。
コールの悪い面
ここまではコールの良い面について整理してきたが、悪い面ももちろんある。一つは、冒頭で友人にも言われた「アイドルの声が聞こえない問題」だ。まぁ…これは正直解決できない。オタクが「参加」している瞬間、「鑑賞」の側面は弱まらざるを得ない。これはデメリットと言えるだろうが、それよりも現場の盛り上がりを優先しているということだ。しかし、それが度を過ぎている場合なんかにはオタクの中でも批判されたり、場合によってはアイドル側から苦言を呈されることがある。例えば落ちサビのような「聴かせる」パートでのコールは嫌われがちである*6。
そしてもう一つは、「オタク、キモい問題」だ。大の大人が顔を紅潮させて「L、O、V、E、ラブリー○○!」とか、「お、れ、の!!○○~!!」とか、「世界で一番愛してる!!!」という姿が見苦しいと言われたら返す言葉はない。ただ、キモくても楽しんだもん勝ちだと僕は思っている。
総括
このフィロソフィーのダンスの「ライブ・ライフ」のYouTubeのコメント欄ではコール必要・不要論争が繰り広げられた*7。
根強くコール不要論は唱えられるし、その考えを否定するつもりはない。ただ、やっぱり僕は「アイドル文化」にオタクのコールは必須だし、コールから熱が感じられる現場が好きだ。
タイトルは ライブ・ライフ/フィロソフィーのダンス より