とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

NHKが描く「推し」の形 ~アイドルオタクから見た「だから私は推しました」の面白さ~

僕が今最も楽しみにしているドラマが、NHK夜ドラ「だから私は推しました」(以下、私推し)だ*1

www.nhk.or.jp

 

 

ものすご~くザックリと内容を説明すると、、、リア充系アラサーOL、愛は彼氏に振られ失意の底にいたが、偶然地下アイドル「サニーサイドアップ」のライブに行くことになる。そして、そこで明らかにパフォーマンスレベルの低いメンバー、ハナに自分を重ねて推し始めることに。厄介オタの瓜田とのトラブル、夏のアイドルフェスへの出演をかけた課金レースなど、色んな出来事を乗り越えて、ハナはアイドルとして、愛はオタクとして成長していく。しかし・・・!?という感じ。

第1話の冒頭は、「あの、推しってわかりますか?」という愛さんのモノローグから始まる。そしてそのモノローグは「だから私は…推しました」という言葉で締めくくられる。そう、このドラマのテーマは文字通り「推す」という事だ。

現在第6話まで放送されたが、このドラマは「推す」という行動とその裏にある感情に真正面から向き合って作り込まれており、アイドルオタクの僕から見るとすごく面白い。今回はこの「私推し」の面白さと、「推す」ということについて考えてみた。

※以下、第6話までのネタバレを含みます。

 

 

↓ 

サスペンスドラマとしての面白さ

脚本の面白さ

第1話の終了間際で、愛さんのモノローグは取調室で刑事に向けて話していたことが分かる。刑事が問いかける。「それは、瓜田さんを突き落とすまでの日々ということですか?」愛さんは答える「はい」
僕は驚く。ええー!愛さんが瓜田さん突き落とした!?どういうこと!?

第4話冒頭では現場目撃者への面通しが行われるが、その際に愛さんはパーカーの中に髪の毛をしまい、意図的に髪形を変える。これは誰か(というかハナちゃん?)を庇おうとしているのか・・・?という疑問が生まれる。

また、取り調べの間、愛さんは常に時間を気にしている描写がみられる。そして第4話の終了間際、刑事が告げる。「始まったみたいですよ、さっき。サニーサイドアップの解散ライブ。」
僕はまた驚く。ええええええーーーー!!!サニサイ解散すんの!?マジ!?

このように、毎週僕はめっちゃ驚き、次の展開を楽しみにしてしまっている。これは普通にサスペンスドラマとして脚本がいいという事だろう。

 

俳優陣の演技

僕はあまりドラマなどを見ないので俳優には詳しくないのだが、このドラマに超有名俳優は出演していないように思う。しかし、みな演技がうまい!主役の愛を演じる桜井ユキさんの絶妙にいけ好かないOLが変わっていく様も、ハナを演じる白石聖さんのアイドルとしての成長していく様も自然に見られる。最新6話での愛さんの戸惑いの演技も心にくるものがあった。

そして何より特筆すべきが、瓜田さんを演じる笠原秀幸さんの「ヤバい奴」感だ!第2話でチェキを投げ捨てて叫ぶシーン、怖すぎる・・・第7話から再登場しそうで楽しみだ。

アイドル現場を彩るアイドルとオタク達が俳優陣の演技で見事に表現されているのもこのドラマの見どころだ。

 

アイドルドラマとしての面白さ

細かいアイドル現場のリアリティ

「私推し」最大の特徴として紹介されるのが、地下アイドル現場のリアリティだ。このドラマには地下アイドルに関する書籍も出されている元地下アイドルのライター・姫乃たまさんが参画している。*2 

職業としての地下アイドル (朝日新書)

職業としての地下アイドル (朝日新書)

 

 

無愛想なライブハウスの受付*3、明らかにSHOWROOMをイメージしたライブ配信アプリ、明らかにTIFを意識した夏フェス*4、全然仕事できねー運営、全てのものをチェキ券何枚分かで換算するオタク、「このフォーメーションは!」って叫ぶオタクとか、、、細かいものを挙げればキリがないが、本当にキチンと取材されてるんだなぁという印象。

また、会社のセクハラ防止ポスターに「それでいいのかサイレントマジョリティ*5、と書いてあったり、SHOWCASEで意味もなく「タデ食う虫もLike it !」とコメントがついてたり*6、随所で放り込まれる小ネタにもアイドルへの愛が感じられる。

そして最大のポイントは、架空の「サニーサイドアップ」というアイドルの作り込みだ!MVや公式Twitterがきちんと準備されており、本当に存在するかのようだ*7。楽曲もDogPさんという、バンドじゃないもん!アイドルカレッジに楽曲提供されている方の作品である。アイドルが自分でスイッチを押して始まるMVの演出とかめっちゃリアリティがある*8


サニーサイドアップMV『おちゃのこサニサイ』~よるドラ「だから私は推しました」~

 

 

アイドル現場の抱える問題

また、各話で地下アイドルが抱える問題点が如実に描かれるのも、「私推し」の凄い点だ。第2話では、地下アイドルのストーカーと労働環境の問題について言及される。ストーカーの実態や、専属マネジメント契約の闇、チェキバック等、「地下アイドルとお金」のリアルがドラマの中でリアリティを持って描かれる。ハナちゃんは語る。

ハナ:私たちの収入ってチェキ券からのキックバックなんで。
愛:出演料とかは?
ハナ:ないです。そんなの。
愛:事務所からのお給料は?
ハナ:ないです。

timsogo.com

 

第4話では夏のアイドルフェス出演のための課金レースの様子が描かれる。真偽のほどはわからないが、まさにTIF2019のメインステージ争奪バトルでは、金の力でメインステージをつかんだメイビーMEが話題になった*9。課金レースやメンバーの収益構造に憤る愛さんに対して、あきらめにも似たTO小豆沢の言葉が突き刺さる。

思うことは皆あるよ。
けどさ、アイドルに俺たちがプレゼントできる唯一のブレイクスルーは売れる手伝いをする、それだけなんだよ

chikaidol-matome-fire.com

 

第5話ではグループ内に内紛が勃発した結果、ステージ上で喧嘩が始まる。そんなドラマみたいな、という気もするが、アイドル現場では実際に発生する。僕は4年前のDorothy Little Happyの卒業ライブを思い出さざるを得なかった・・・*10

www.billboard-japan.com

 

オタクの心情描写

このドラマで僕が最も心を動かされるのが、ハナちゃんにハマっていく愛さんの気持ちだ。特に印象的だったのが第3話のショッピングセンターのシーン。リア友と一緒にいる愛さんにハナちゃんが話しかけた時に、愛さんは知らんぷりをする。僕は「てめぇリア友に推しの紹介もできねーのか、アイドル傷つける奴はクソだぞ!!」とTVを見ながら激昂した。だが、その気持ちもわかるのだ。。僕も最初、アイドルのCDはコソコソと人に見られないように買っていた。アイドルはやっぱり人に隠す趣味だという意識がある*11

そういう気持ちもわかるからこそ、地下アイドルをディスる同僚に対して思わず愛さんが放つ言葉が胸に刺さる。

誰かの許しがないとやりたいこともやっちゃいけないの?
誰かに望まれないと立ちたいとこにも立っちゃいけないの?
誰が決めたのそんなこと?
(中略)
ハナはね、歌も踊りもダメで、おまけにコミュ障気味で、おどおどしてて、イタくて、みっともなくてさ。
でもだからこそ私、あの子を見つけた時に、ああ、「私だ」って。ここにいるのは私だって思って。
でさ。そのもう一人の私はすっごい頑張ってるわけ。逃げないで、前向いてさ。

しかし同僚は、それは共依存だ、と冷たく返し、次いで映し出されるのは冷たい現実…通りすがりのショッピングモールの客達だ。スマホを片手に笑う若い女性達、物珍しそうな目で見るカップル。。。僕たちオタクはこの目をよく知っている。自分より「下のランク」の人をバカにして見る時の目だ。しかし、そういう世間の目から吹っ切れた愛さんの言葉にはオタクの気持ちが見事に表現されていた。

好きな事を好きって言えるってさ、良いね

第5話のフェスでのシーンも秀逸だった。アイドルオタクをやっていると稀にアイドルが「報われる」瞬間というのが訪れる。例えば、ずっと目標にしてきたステージに立つ瞬間などだ。僕はそういう時に「今までこの子達を推してきてよかった」と心から思い、大体の場合泣いてしまう*12。第4話で愛さんはエロチャットまでして金を稼ぎ、サニサイのフェス出場のために金を突っ込む。そしてフェスで「サイリウム・プラネット」のパフォーマンスと、サイリウムの海の光景を見て泣く。そうだ、この光景を見るために俺もオタクをやっているんだ。

だからこそ、第6話で自分が嘘をつかれていたことを知った愛さんの衝撃は想像すらできない。もちろん、ある程度は我々オタクは「金ヅル」としての自覚があるし、それこそがオタクの存在意義でもある。しかし、自分から金を引き出すために嘘をつかれていたってのはそんなレベルの話ではあるまい。そりゃ他界もしてしまう・・・

しかも、その嘘の内容は「かつて虐められていたというのが嘘で、虐めていた側だった」などと、推しの人間性を疑うようなものばかり。正直、彼氏がいるとかタバコ吸ってるとかより、100倍キツい話だ。ある意味オタクにとって冷や水を浴びせるような、一番エグい回だった。。。僕は自分のためにポテリッチを100袋買ってくれたオタクをバカにした夢アドの山田さんのことを、ふと思い出した。

tikaidolmatome.blog.fc2.com

 かつてここまでオタクの心情面に鋭く迫ったドラマがあっただろうか*13。現場のリアリティもさることながら、「気持ちのリアリティ」をここまで的確に表現しているというのが、僕はこのドラマの最大のポイントだと思う。

 

「推す」ということ 

愛さんは第1話冒頭のモノローグでこう語る。

親友のような、妹のような、子供のような、
分身・・・ある意味もう一人の自分

 

「推す」と一言で言っても色んな形がある。アイドルを自分の分身として応援するオタクもいるし、恋愛感情全開のガチ恋オタクもいるし、似非楽曲派とか言いながら色んなアイドル現場に顔を出すKSDDオタクもいる。

しかし、どの推し方でも言えるのは「推すって、一言で説明できねーよ」ということだ。僕はフィロのスの魅力をその音楽性にあると思っているが、推しのマリリさんに彼氏がいるとわかった時に「全然いいよ!」と言って簡単に割り切ることはできないだろう。

 

「推す」という行動の裏にある感情には恋慕、尊敬、親しみ、羨望、感謝、共感、母性など本当に多様なものがマーブル模様のように混ざり合っている。とうてい一言で説明できるようなものではないのだ。「私推し」はそんな複雑なオタクの思いに真正面から向き合っている。

 

残された放送はあと2回。ハナちゃんの嘘がばれて他界した愛さんは、どのようにハナちゃんを「推す」のだろうか。非常に楽しみだ。

 

 

 

※最終回まで放送後、続きを書きました↓ 

idol-consideration.hatenablog.com

 

 

*1:略し方合ってんのかよくわからない

*2:この本は僕も買った。地下アイドルについて非常に興味深い考察がなされている。

*3:ちなみに姫乃たまさんが実際に演じている

*4:ちなみに26時のマスカレイドが出演してた

*5:欅座46の楽曲。

*6:アンジュルムの楽曲。

*7:ちなみにNHKスタッフブログを見るとオタクのコールまでちゃんと書いてある

【だから私は推しました】サニサイ「おちゃのこサニサイ」歌詞&オタコール大・公・開 | だから私は推しました | ドラマスタッフブログ|NHKドラマ

*8:tipToe.の「夢日和」とかまさにそんな感じ

tipToe. - 夢日和 Music Video - YouTube

*9:なお、メイビーMEは現在活動休止中・・・

*10:僕も参加していたがめちゃめちゃ重苦しい雰囲気だった。二度と経験したくない。

*11:最初に買ったのはももクロの「バトルアンドロマンス」だった。普通に売れてる地上アイドルでも恥ずかしかったのだ。今はもう完全にオープンにしている。

*12:ももクロが国立競技場を発表した時とか、10周年でMUSiCフェスを開催したエビ中とか、フィロのスがステラボールで歌ったジャストメモリーズのアウトロとか。

*13:つーか、そもそもアイドルオタクのドラマなんてなかったけど。