とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

NHKが描く「推し」の形② ~「だから私は推しました」が伝えたかった事~

僕が今最も楽しみにしているドラマ、「だから私は推しました」が終わってしまった。

6話終了時点で一度エントリを書いたが、ドラマが完結した今、改めて振り返ってみたい。
(前回エントリはこちら↓↓↓)

 

idol-consideration.hatenablog.com

 

※以下、最終回までのネタバレを含みます。

 

 

アイドルの解散

僕自身が解散ライブに立ち会ったのは、生ハムと焼うどん(正確には「断食」と銘打たれた無期限の活動休止)とRHYMEBERRYの2組だけだ*1。僕は両グループともそこまで熱烈に推していたわけではないが、その2つのライブはやはり印象深いものだった。アイドルの解散ライブは、彼女達の最後の花道であり、最重要イベントだという事を僕たちオタクは肌でわかっている*2

愛さんがハナちゃんの身代わりに出頭した行動はワイドショーで「極めて幼稚」と形容される。客観的な状況を見ると否定できないが、愛さんが解散ライブを守ろうとした気持ちはオタクであればよくわかるものだったし、愛さんがハナちゃんに放ったこの言葉は胸に来るものがあった*3

5人で歌えるの今日が最後なんでしょ!
皆だってこれで最後だって楽しみにして、覚悟もして。
あいつに皆からラストライブ奪う権利なんてないでしょ!
私はさ、ライブを守りたいの。ハナのTOとして。

だからこそ、僕が最終話を見て思ったのは、「愛さん、解散ライブを生で見れなくて残念だったな…」という事だった。TOには、やっぱりハナちゃんのこの言葉を生で聞いてほしかった。

栗本ハナは幸せでした。

だから、愛さんが解散ライブに参加しているような演出がなされた「ただいまミライ」のMVを見た時には泣いてしまった。NHKわかってやがるぜ・・・

 


よるドラ「だから私は推しました」Special Thanks MV『ただいまミライ』

 

アイドルとオタクの関係性

今作で「推し」というテーマを描くにあたって、このドラマではアイドルとオタクの様々な関係性が描かれた。

このドラマはアイドル現場のリアリティを精緻に描きだしているのだが、唯一リアリティが欠如している点は、「サニサイとオタク繋がりすぎ」というところだ*4。ハナちゃんから愛さん宛に平然とDMが送られたり、小豆君が花梨様を呼び出したり、、、こんなの普通に考えてあり得ないことだ。もちろんオタクと繋がっている地下アイドルというのは一定数いるだろう。しかし、それは一部のモラルのないオタクとモラルのないアイドルの話であり、繋がりオタがTOをやっていたり、オタクと堂々と繋がっているアイドルが「良いアイドル」として描かれる事には違和感を感じた。と言いつつ、これだけアイドル現場のリアルに迫った作品だ。この「サニサイとオタク繋がりすぎ」問題は、愛さんや小豆くんがサスペンスドラマのストーリーに絡むために意図的に棄損された、というのが実態だろう。

そういった「繋がりすぎ」問題には目をつむった上で、まずは愛さんとハナちゃんの関係性について見てみよう。ハナちゃんの嘘が発覚した第6話で、愛さんとハナちゃんの間には亀裂が生まれる。しかし第7話で、ハナちゃんの嘘の背景は「愛さんを金蔓にしよう」という狡猾な意志ではなく、彼女の弱さにある、という事が明らかになる。愛さんは語る。

これってさ、ハナそのものだなーって。
好かれたくてちょっと都合良く言っちゃう。
で、嫌われるのが怖くて、媚びて嘘を言っちゃう。
そういう、そういう気持ち、私、嫌って程知ってたはずなのにさぁ・・・

愛さんは当初ハナちゃんを自分と重ねて推し始めたし、ここで改めてそれが描かれる。この事件を経て、二人の間の信頼関係はより深いものとなった。そうやって深まった愛さんとハナちゃんの関係を踏まえて、最終話でハナちゃんが涙ながらに愛さんに言った言葉には思わず泣かされてしまった。

私の鍵閉めするのは愛さんしかいないじゃないですか。
今までありがとうございました。

 

また花梨ちゃんと小豆くんの会話の中でも、アイドルとオタクの特殊な関係が描かれる。

花梨「いい加減気づいてよ!!ステージの上から見てるとね、すっごいよく見えんの、だれがどこ見てるか。小豆さんが、ふとした時、一息ついた時、あたしどこ見ちゃってるか知ってるの。多分、小豆さん以上に知ってるの。で、私は…私はそれ見ながら歌うのが辛いんだよ」
小豆「え…それは花梨は俺が好きってこと?」
花梨「そういうんじゃない」
小豆「えー…何わかんない」
花梨「私の理想は私だけのオタでいてくれる小豆さんなんです」

もちろんこのドラマのように、アイドルに呼び出されて直接対話したりすることはないだろうが、今やアイドルとオタクの関係性は双方向なコミュニケーションが成立するものとなった*5。一人の人間同士の間に生まれる関係性に加えて、アイドルとオタクという特殊な立場だからこそ生まれる関係性がこのドラマでは見事に描かれていた。

  

「推す」という事

前回のエントリで僕は「推すって、一言で説明できねーよ」と書いたのだが、ハナちゃんが一言で説明してくれた。

推すって、愛だ

このドラマの面白さの一部は、謎を呼ぶサスペンス要素やアイドル業界の闇を描いたところにあった。しかし、最後の最後にこのドラマが伝えた事はめちゃめちゃシンプルな話だった。人が人を推すのは愛だ。

最後に僕が推しているアイドルグループ、フロスティのダンス…もとい、フィロソフィーのダンスのおとはすの言葉で締めたい。

*1:ちなみに11月にWHY@DOLLのラストライブが控えている…

*2:オタクじゃない人(特に女性)からはよく非難されるが、彼女の誕生日と重なった場合などは問答無用で解散ライブが優先である。

*3:オタクじゃない人でもこのドラマをここまで見てきたならこの気持ちはわかるのではないだろうか。

*4:補足しておくと、地下アイドル業界における「繋がり」とは個人的に連絡を取る、という意味だ。

*5:僕も全く認知されていないアイドルの特典会に行ったときに、「〇列目あたりにいましたよね~」と言われて驚いたことがある。彼女たちは僕らの想像以上に客席を見ているのだ。