とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク歴10年くらいのKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

アイドルとHIP HOPの親和性 ~フリースタイルティーチャーに見るアイドルの矜持~

フリースタイルティーチャーのアイドルバトルが今アツい!!!

 

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『フリースタイルティーチャー』とは?

番組の概要

フリースタイルティーチャーとは、ラッパーとラップ好き芸能人がタッグを組んでフリースタイルバトルに挑戦する番組だ。1stSeason、2ndSeasonは芸人たち*1が出演し、フリースタイルバトルを繰り広げた。しかし、この番組自体、順風満帆とはいい難い状況から始まったものだった。

 

逆風下での番組スタート

そもそも、この番組はフリースタイルバトルブームを巻き起こした『フリースタイルダンジョン』の後継番組である。しかし、フリースタイルダンジョンが終わってしまったのは、出演者の薬物逮捕というちょっとアレな理由によるものだ。しかも、新番組であるフリースタイルティーチャーが始まったのは、コロナの逆風吹き荒れる2020年7月。フリースタイルでガン飛ばしあうにもアクリル板越し、観客からの歓声も聞こえず盛り上がりに欠けるという問題があった。

それに、フリースタイルダンジョンでは現役MCたちがバチバチしのぎを削っていたのに対し、単なるHIP HOP好きの芸能人を1ヵ月トレーニングしてバトルをさせただけ。見てられないレベルのバトルとなることもしばしばだ。僕自身、紺野ぶるま覚醒とかは面白く見てたのだが、やっぱり全体的にフリースタイルダンジョンのほうが面白いよなぁ、と思いながら見ていたのが正直なところだ。

 

アイドルラッパーバトル

出演メンバー

そして3rdSeasonで始まったのがアイドルラッパー育成バトルだ。対決するのは、でんぱ組.inc成瀬瑛美lyrical schoolのrisano、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIの恋汐りんご、BananaLemonのLety、hy4_4yhのyukarinの5名だ。このうち、Letyさん以外は普通に見たこともある面子だ。アイドルオタクの僕はどのようなバトルが見られるのか、非常に楽しみにしていたが、想像を上回る名バトルが繰り広げられることとなった。いくつか印象に残ったバトルを振り返ってみる。

 

成瀬瑛美 VS yukarin 第3ラウンド

yukarinはhy4_4yh(以下、ハイパヨ)として2006年から活動しており、音楽業界では名の知れたグループだ*2。しかし、一般知名度の方はあまり高くないというのが正直なところだ。それに対してえいたそが所属するでんぱ組.incは武道館公演を何度も成功させており、大型フェスへの出演なども含めハイパヨとの知名度には雲泥の差がある。

それを踏まえて吹っ掛けたのはyukarinだ。「お前にはわかんねぇな、恵まれた環境のパレード」と言ってルサンチマン全開でかみつく。しかし、でんぱ組こそ秋葉原メイドカフェから結成され、泥水をすすって成り上がったグループだ。えいたそも「ガチでメンバーよりも少ないスタートから上り詰めてここまで来た」と応酬する。しかし最後のターン、地下から地上に駆け上がったでんぱ組に対して、今もまだ地下で戦うyukarinのバイブスが炸裂する。

ガチで勝ち上がることに今 価値があるんだわ
「地下地下」って私だって散々馬鹿にされてきた
でも一か八かいつも人生賭けてきた
アングラに幸あれ

ガチ⇒勝ち⇒価値、と踏んだと思ったら、それを逆転させて「地下地下」⇒「一か八か」と踏んで、最後に「幸」で踏む技巧も素晴らしいが、それ以上にバイブスがアツかった。地下アイドルオタクをやっている身としては、マジで痺れるラインだった。 

 

恋汐りんご VS risano 第2ラウンド

ヒップホップアイドルを名乗るlyrical schoolを背負ってきてるrisanoさんの初戦、なかなかのプレッシャーだったと思うがその強心臓ぶりを見せつける。

フリースタイルって何か知ってる?
今汐りんとリサノが作ってる この事 何も考えてない
あかさたなはまやらハハ 朝から笑ったな
てか ここ新木場 アザラシ禁止だ

「あかさたなはまやらな」とかこの大舞台で言える!?一歩間違えれば相手をおちょくっているだけのようにも聞こえるが、risanoさんはシンプルに音に乗って楽しんでいるようだ。そして最後に汐りんが持ってきたアザラシのぬいぐるみをイジる茶目っ気まで見せつけた。次のターンでも自らのペースを乱すことなくスキルで汐りんを圧倒した。

ありがとうほめてくれて 私は”HOMETENOBIRU”って感じで
色んなフロウにノリノリだ  ノリノリサノ王国でも作っちゃいましょうかな

なんという自由さ!「HOMETENOBIRU」は去年リリースしたリリスクの曲名、そして「ノリノリサーノ王国」YouTubeでリサノさんがやってる企画である。この自由さが最高だ。一方、このバトルの中で汐りんが放った「楽しんでる タコ死んでる」という名(迷)ライムは謎すぎて視聴者に大きなインパクトを与えた。


新ノリノリサーノ王国 vol.1

 

Lety VS 恋汐りんご 第2ラウンド

双方0勝1敗しての対決。Instagramで服脱いだやつ載せんのやめろ」と、先制攻撃を仕掛けたのはLetyさん。しかし、汐りんは「Disが全然刺さらない」「言ってることがその他大勢と一緒」とDis自体の質の低さを指摘し勝利。勝負は第2ラウンドへ。汐りんが先攻を取り流れは続行。

よくそんなチープなDis屋さん 出来まるな
思ったよりも浅はか 汐だったら鮮やかにやってみせる

しかし、Letyさんは怯まず恋汐りんご 恋するから夜は跨ってる男のXXX*3と追撃。これに対して汐りんのターン。

汐は残念だよ Letyちゃんってもっと良い子だと思ってたのに
それもキャラ作ってるんじゃない? やってることが下品だし
汐は絶対やらないなのけど そういう事
無理してやってるの 心が痛くなる
アイドルだったら一本貫いて行けよ

このターン、心からLetyさんを憐れんでいるような汐りんの表情が印象的だった。スキル的にどうこういうような試合ではなかったのだが、アイドルとして一本貫いている姿を見せつけて、LetyさんのDisの浅さを浮き彫りにした汐りんの圧勝だ。

 

成瀬瑛美 VS 恋汐りんご 第2ラウンド


神回!批判してたキミも鳥肌のリリカルライム炸裂!AKLOが思わず感心してしまったパンチラインとは?尊敬する先輩アイドルに勝ちたい執念ッ!│「フリースタイルティーチャー」毎週水曜夜2時5分アベマ配信中!

今回のアイドルバトルの中でも最もアイドル感が高い二人の対決だ。そもそもえいたそと汐りんの付き合いは長い。第1ラウンドでえいたそが触れていた『帰り道』は2人が一緒に歌ったアニソンの曲名だ。

そんな二人のバトル、気持ちが入らないわけがない。しかし、汐りんのスキルが及ばず第1ラウンドはえいたそが圧倒。そして、汐りんが後攻を選択し、第2ラウンドが始まった。

第2ラウンドでもえいたそのスキルは冴えわたる。しっかり韻も踏みつつ、「恋して瑛美に」*4と言って挑発する。それに対して、汐りんはまっすぐ向き合って言葉を紡ぐも少しパンチにかける印象だ。それに対してえいたそはさらにビートアプローチを変えて勢いをつけたうえでバイブスで畳みかける!「超えられないよ、私が太陽」と自身のキャラクター(「みんなの太陽」と呼ばれている)を強調しつつも固く踏んでフィニッシュ。しかしこのターン、汐りんが逆襲する!

そう えいたそは太陽みたいな黄色 汐は恋するりんご色の赤
信号機で言ったら黄色は注意 汐はギリギリ渡る
汐の色は赤 ここでえいたそ止めるってこと
えいたそを止める そして超える マイナスからのNo.1

カッコよすぎる!!まず、えいたその黄色と汐りんの赤を信号に例える抜群のセンス!準備してきたとしても素晴らしいし、即興で出したのなら本当にすごい。そして、最後に言い放った「マイナスからのNo.1」。でんぱ組がアイドル業界を風靡した大名曲、『でんでんぱっしょん』のサンプリングだ!!これ聴いた瞬間、マジで痺れた・・・審査員はこの曲知らなかったのだろうが、アイドルオタクなら魂の震えるバトルだった。


でんぱ組.inc「でんでんぱっしょん」MV【楽しいことがなきゃバカみたいじゃん!?】

 

 

各メンバーの印象

今回の対決が面白いのは、アイドルの矜持が五者五様のスタイルを通してぶつかり合ってる様が見てとれるからだ。

成瀬瑛美でんぱ組.inc

えいたその持ち味はその器用さのように見えるが、実はその裏にある努力も光っている。「恋汐りんご」と「おい血を見んぞ」で踏んだり、「でんぱ組」、「現場主義」、「喧嘩好き」とパンチのある韻を踏んだりしている。さすがにこれを即興で出せるとは思えないので準備してきたのだろうが、準備したものをしっかり出せるのは、えいたその努力とテクニックがなせる業だと感じた。

そして、でんぱ組は今回登場した5人の中で圧倒的に「格上」のグループだが、どのバトルでもその表情からは、一切手を抜かず全力で相手を殺すという気概を感じた。地下から上り詰めた現役メジャーアイドルとして負けられるかよ、というプライドがビシビシ伝わってくる。ターンしたり、エンタメ性の高さも抜群。「魅せ方」のプロであることを見せつけた。

 

yukarin(hy4_4yh) 

yukarinさんは圧倒的なヤンk・・・バトルMC感がその持ち味だ。その目線、フロウの乗り方、ライミング、ちょくちょく挟まる「あぁん」みたいなやつ、全部ひっくるめた立ち居振る舞いが堂に入っている。「お前不良品 返品希望 単品じゃ使い物にならねえ」とか「内臓見せろ」なんてバトルMCさながらのラインだ。

そして、前述の通り15年という長いキャリアを持っている。僕も今回知ったのだが、その長すぎる下積みを踏まえると彼女がこの番組にかける意気込みは並々ならぬものがあるだろう。一方、ステージ慣れという点でそこらのバトルMCに全く引けを取らない。ハングリー精神を持ったベテランが一番怖いのだ。

 

risano(lyrical school

risanoさんがサ上さんと作り上げたスタイルは”Have fun”だ*5。risanoさんがリリスクに加入したのは4年前だが、リリスクというグループ自体は10年くらいの歴史を持ち、多幸感あふれるラップを持ち味としてきた。

2017年の新体制以降のリリスクは多幸感を残しつつ、そのステージの自由度は格段に増加。増。リサノさんは今回そのバックグラウンドを存分に活かしたステージングを披露している。アメリカ仕込みのフロウやダンスもキレキレである。ちなみにサ上さんが関わったリリスクのLOVE TOGETHER RAP、多幸感あふれる名曲だ。

 

Lety(BananaLemon)

申し訳ないが、現時点でLetyさんの持ち味はまだ見えてない。DOTAMAさんに教わったDisを繰り出そうとするも汐りんには「Instagram」一本、risanoさんには「留学」、yukarinに至っては「身長の割に顔がでけぇ」と容姿をDis。この程度のDisはアイドルたちがネットの世界で散々受けてきた内容だ。「浅はかなDis」と返り討ちにあうだけだ。

彼女のようなヒールがいることで、他のアイドルたちの矜持がより目立って番組としては面白くなっているが、彼女自身はうーん、、、今のところ良いとこなしだ。1st Seasonでカミナリたくみが成績急落させたところも含め、ちょっとDOTAMA先生の教え方に問題があるのでは?と思ってしまうなぁ。

 

恋汐りんごバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI)

今回、最も記憶に残ったのは間違いなく汐りんだろう。最終結果としてはLetyさんに1勝をあげただけだが、えいたそと激アツバトルを繰り広げ、ライブ巧者のyukarinさんを追い詰めた。僕自身も印象に残ったバトルのうち3戦が汐りん戦だ。

本人もyukarin戦で言っていたが、見た目もしゃべり方もザ・アイドルの汐りんは最もHIP HOPから遠い存在のように見えたが、相手を真正面から見つめ、独自の言語「汐りん語」を使いこなしながら、自分自身を誇る汐りんは輝いていた。技巧的なフロウは少なく、単調さを感じる点もあったが、TKda黒ぶちさんが教えた「ラップで大事なのは主義主張である」を貫き通した汐りんは紛れもなくHIP HOP精神の体現者だった*6


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今後の展開

残すところは、えいたそ・Lety戦と、yukarin・risano戦の2試合のみ。後者の試合はラップ巧者の二人がぶつかることとなり、ハイレベルな試合が期待できるのではないだろうか。

今回感じたのはフリースタイルバトルとアイドルの親和性だ。その辺のバトルMCなんかよりステージに立ってきた彼女たちは言葉の重みを知っており、ラインには説得力がある。また、人気の芸能人と違い、この番組で名を上げるぞ、というバイブスは若手MCに引けを取らない。アイドルとフリースタイルバトル、めちゃめちゃ相性がいいのではないだろうか。ぜひともこの企画は続いてほしい。

 

最後に。そんな彼女たちのプライドのぶつかり合いは現役のアイドルの背中を押している。risanoさんとおなじlyrical schoolのメンバーでありゴリゴリのHIP HOPオタクでもあるhimeちゃんのツイートがそれを物語っている。

 

 

*1:1stはカミナリのたくみ、レイザーラモンRG紺野ぶるまゆりやんレトリィバァ。2ndは、品川祐原田龍二ゆきぽよ、ゆいP

*2:ちなみに僕は『アフロの変』という以前フジテレビでやっていた深夜番組で知った。あの番組復活してくれないかなぁ

*3:多分チンコって言ったのだろう

*4:汐りんの自己紹介で「しおに恋しよ」というフレーズがある

*5:関係ないが、risanoさんはTask have Funの白岡今日花ちゃんと仲良しである

*6:HIP HOPのことよく知らないのであまり突っ込まないでいただきたい