2023年4月22日。僕は元町・中華街行きの特急に乗って横浜を訪れた。神奈川県民ホールで行われるNUANCEのワンマンライブ"HOME"に参加するためだ。僕がその日見たこと、感じたことが色あせないように書き残しておきたい。
開場前
会場周辺の様子
少し早く到着したので、僕は元町・中華街駅から山下公園へと向かった。その道すがら見覚えのある一団とすれ違う…あ、クロスノエシスだ。ヌュアンスにとって盟友と言えるクロノスは横浜でオフ会があったのだ。ヌュアンスのワンマンを応援してくれる粋な計らいだ。
公園を散策した後にコンビニに寄った僕はまた別の一団とすれ違った。PANDAMICだ。先日発売されたシングルのリリース記念ライブにヌュアンスが出演していた。昼は別の現場があったはずだが、応援に駆けつけてくれたのだろうか?そして、県民ホール横で小太りの男性を見かける…アホマイルド坂本さんだ。神奈川住みます芸人としてヌュアンスとも絡みの多い方である。
こうやってアイドルシーンを共に生きる仲間や関係者の方々がワンマンライブを訪れてくれることが自分のことのように嬉しくなる。こういうワンマンならではの浮足立った雰囲気が僕は好きだ。
会場内の様子
会場に入り、砂かぶり席のグッズを受け取る。いつもの無愛想なライブハウスのもぎりと異なり、スーツ姿の係員に案内されるのに高揚感を感じる。
入場した会場のロビーで目を引いたのは歴代の衣装やワンマンのフライヤー、それに小物達。ライブの告知時に画像のような案内がされていたため、会場内に何らかの演出があるのは分かっていたのだが、このように並べられているのを見ると感慨深い。
O-EASTのワンマンの紗幕を使った演出はかっこよかったな、初めてライブを見たのはこの黒衣装だったな、わかちゃんの修論提出を祝ったな、新メンバーが入ったワンマンも感動したな…展示されているもの一つ一つを見てその時の思い出が蘇る。そして脱退していったメンバー…みおちゃん、ミサキサン、珠理ちゃんに想いを馳せる。ここに彼女達の姿がないのはやっぱり寂しいなぁ。
そうやって感傷に浸ったりオタ仲間と話してるうちに開演時間が近づいてきたため、僕は自席に向かった。ステージ上の楽器達の前には冷蔵庫やソファが並べられている。そんな中でも一際目を引くのは4枚の扉だ。この扉はどのように用いられるのだろうか?そんなワクワクした気持ちを抱えて僕は開演を待った。
開演~前半戦
開演の演出
開演時間になり、「アヌュナイ人」の近藤茶さんが登場し、演技を始める。どうやら「ドリーヌュ号」という船で旅に出ていた「お嬢様」がお屋敷に帰ってきたシーンのようだ*1。次いで登場した芸人の寺田寛明さん、オジマアローさんは新人アヌュナイ人を演じる。
アヌュナイ人はお嬢様が散らかしたものを片付けている。片付けながら拾い上げたのはミサキサンの衣装、みおちゃんのスタンドマイク、そして珠理ちゃんのピアニカ。ヌュアンスを推してきたオタク達の脳裏には、衣装を着てターンするミサキサンや「which's witch」をかっこよく歌うみおちゃんや「ハチミツ片想い」をパフォーマンスする珠理ちゃんの姿が浮かんでいたのではないだろうか。大きな拍手が上がる。
アヌュナイ人の誘導で観客が「おかえりー!」と叫ぶ。そして扉の後ろから「ただいまー!」と返事とともにわかちゃんが登場した。最高のライブが幕を開けた。
ライブ本編
わかちゃんがピンクの衣装で登場し、一人で歌い出したのは「白昼ブランコ」だ。一人ずつメンバーが扉から登場してそこに加わっていく。更にバンドメンバーが加わって一気に音圧が会場を包んでいく。体が熱を持つ…!
バンドサウンドが最も映える曲*2、「ルカルカ」をパフォーマンスした後、サックスとトランペットのソロから始まったのは「ナナイロナミダ」。そうだ、ヌュアンスのワンマンライブといえば、グルーヴ感溢れるこのバンドサウンドだ!
次いで「テキーラサンライズ」。そこからシームレスに「セツナシンドローム」に繋ぐのはヌュの普段のライブではお約束とも言える演出だが、今回のワンマンではなんとそれをバンドで再現*3。ブワっと鳥肌が立つ!セツナシンドロームでメンバーが「ヌュアンスでーす!」と叫ぶと僕は(ああ、ヌュアンスのライブに来たな)という気持ちになる。
「ai-oi」は鋭い目でかっこよく歌い上げる恭美さんが印象的。「sekisyo」終わりではシームレスに「サーカスの来ない街」のギターリフが始まる。たまらん・・・
メンバーはそこで一度退出して直近の青赤のミニスカート衣装に着替えて再登場し、「特急 元町・中華街行27分」→「KaMoMe」→「Ocha cha cha chinatown」と、新曲を含む3曲を披露する。特急に乗って元町・中華街駅に降り立ち、山下公園でカモメに出会い、中華街へ繰り出す…そんなストーリーかな、ほぼ今日の僕やんと思いながら見る。チャイナタウンでは後ろでアヌュナイ人達も龍のように舞い踊る*4。
バンド紹介という名の無茶振りに見事にバンドメンバーが即興演奏で応えたり、ダンスレクチャーをしたりして、「I know power」がスタート*5。「皆さんお静かに」の歌詞でいきなり静かにさせられるの理不尽だったな…笑
そして、「ピオニー」から、ライブ最後に持ってこられることも多い「Sky baloon」でライブ前半戦は終了。というか、まだ前半戦!?という感じ。
新人アヌュナイ人によるコント
メンバーが一旦退出して始まったのは新人アヌュナイ人こと芸人のお二人によるコントだ。冒頭で寺田さんが「この時間は休憩だから座ってみれば良いんじゃないかな~トイレに行く時間もあるな~」と虚空に向かって説明*6。
そしてメンバーも交えたコントは、新人アヌュナイ人が「お嬢様」ことメンバーの一人一人を紹介していくスタイル。手始めにパジャマ姿で登場したのは、レンガを手にしたわかちゃん。建築士でもあるわかちゃんは赤レンガ倉庫を愛するあまり、横浜に帰るたびに赤レンガ倉庫から一つずつレンガを抜いていく、というネタだ。次いで、緑色のビー玉のようなものが大量に入った瓶を抱えて現れた初音さん。野菜が嫌いなため、シウマイの上のグリーンピースを溜めている、と説明される。オジマさんの「吉良吉影が自分の切った爪集めるみたいに!?」というツッコミにひときわ大きい笑いが起き、(やっぱヌュアンス好きな層はジョジョも読んでるんだな…)と感じる。三番手は恭美さんが自作の歌を歌う。が、その歌詞がインドカレー屋の謎ドレッシング美味しい、理科室の蛇口についてる5cmくらいのホースが汚いという寺田さん感あふれる歌詞。そして、最後に登場したのは妃菜さん。わかちゃんが抜いたレンガを返し、初音さんが残したグリーンピースを食べ、恭美さんの路上ライブの警察の許可取りをしたり、実は縁の下の力持ち、という設定。そんな風に我々もお嬢様を縁の下で支えなければいけないね、と新人アヌュナイ人がまとめてコントは終了。
ヌュアンスのオタクとしても知られる寺田さん・オジマさんのコントだけあってメンバーの特徴が盛り込まれており、オタク的にも笑える内容になっていたし、何よりお二人の愛を感じるコントだった。元々は椅子を運ぶだけ、という体でフジサキさんは依頼したそうだが、他の演出でも大活躍だった。
後半戦
名曲詰め込みブロック
コントが終わり、再びメンバーが登場する。純白の見たことのない衣装を着ている。胸には横浜市の花でもあるというバラがあしらわれている。この新衣装、正直めちゃくちゃ好きだ…。
ヌュアンスさん、土曜日に県民ホールにてライブでした!そちらでお披露目された新衣装のアクセサリーを作りました。いつも素敵に着こなしてくださりありがとうございます🌹
— kissmi wakisaka (@kissmi_wakisaka) 2023年4月24日
今回は県民ホール❗️ということでいつもと違う雰囲気で作ってみました。横浜市の花でもある薔薇をキラッと作りました。 https://t.co/HK5wPSVyla pic.twitter.com/dOPNbuEm9C
そして、響くカッティングの音…「under the moon」だ!この楽曲のバンドアレンジ大好き!「Flat Rat」で勢いをつけ、「sanzan」「ハーバームーン」とヌュアンスの代表曲達を相次いでパフォーマンスする。「sanzan」であまりMIXが聞こえないのが少し寂しいがこの日のレギュレーションは連続した声出しはNGという事で少しオタクも遠慮したのだろうか。
そしてメンバーがステージ中央に置かれたソファに座ってボサノバ調で始まったのは「雨粒」だ。曲の途中でメンバーが静かに立ち上がり前に歩く。そして、「愛が落ちそうだ」でバンドメンバーが入ってきて一転、轟音での演奏に変わる。降り注ぐ土砂降りの愛に圧倒される*7。そこに続く「highlight」「last a way」…激エモゾーンだ。
そんな激エモゾーンから「カレハ舞ウ」では一気にコミカルな雰囲気に。ターンテーブルに乗って回るのはいつも通りの演出だが、今日はアヌュナイ人が登場し、メンバーに紙吹雪を降らせる。観客席からは「よっ汐崎屋!」なんて声も飛ぶ。そして、「タイムマジックロンリー」「ミライサーカス」とヌュアンス最大の沸き曲をバンドメンバー紹介を交えてパフォーマンス。銀テープも飛んでこの日一番の盛り上がりだったが、楽しすぎてあまり記憶がない。
終盤
そんな盛り上がりまくりのブロックを経て、クッションを投げたり自由にはしゃぐメンバーにアヌュナイ人がキレる芝居が始まる。アヌュナイ人は一人一人に諭すように早くお眠りください、と伝える*8。
この芝居の中で、わかちゃんに対して近藤さんが言った「私はお嬢様にずっと居て欲しいんです」、「安心してお眠りください」という言葉が、何というか…ぶっ刺さった。
僕は正直なところ、ヌュアンスを支えてきたわかちゃんがこのワンマンで卒業してしまうのではないか、と懸念していた。この3月で大学院を卒業したわかちゃんは就職してもおかしくないし、4月のワンマンというのは良い区切りにもなりそうだ。そういうことを考えていた僕にとって、近藤さんがいう言葉は芝居で「お嬢様」に対する台詞以上の意味を持って届いてきたのだった。
そんな演出の後、メンバーが静かにドアから出てきて始まったのは初期から歌い継がれてきた「wish」だ。僕は泣いた。
この僕の小さな勇気を君のために使いたい
バンドメンバー達が退出し、このライブ本編の最後にパフォーマンスされたのは「Love Chocolate?」だった。高い音楽性を持ったバンドサウンドに乗せて行われたこの日のパフォーマンスはいずれも素晴らしいものだった。しかし、僕の心に最も響いたのはオケ音源でのこの「Love Chocolate?」だった。
曲が終わり、アヌュナイ人が電気を消す演技をして、ステージが静かに暗転した。こうしてヌュアンスのホールワンマンライブ、”HOME”本編は幕を閉じた。
お気持ち表明~アンコール(的なもの)
本編が終了し、やっとメンバーが自分の言葉でMCを行う。印象に残ったのはわかちゃんの「県民ホールに立つ決断をした自分を褒めたい。すべてのことが今日に繋がった」という言葉だ。
一緒にやってきたオリメンが一人ずつ脱退していき、学業も忙しい中、大変な思いもたくさんしてきたのだろう。それでも諦めずに戦い続けて、このステージにたどり着いた万感の想いがその言葉には詰まっていた。
そして、再度バンド呼び込んでアンコール的に「君まち商店街」をパフォーマンス*9。曲中でメンバーがステージから降りてきて通路を練り歩く様子は、ヌュアンスの原点、商店街でのライブのような長閑な雰囲気に溢れていた。
特典会
人を待たせてたので、特典会はわかちゃん&初音さんと1回ずつチェキ。わかちゃんには「あの『wish』はずるい、泣いちゃう」と、初音さんには「入って1年たったけど、本当に成長したね」と伝える。
言いたいことの1%くらいしか言えてないが、特典会というのはそんなものだ。
セトリ・公式(?)ライブレポート
セトリはこちら。
とりあえずセトリ。#ヌュアンス #ヌュ #NUANCE #ヌュアンスの2000 pic.twitter.com/2LguzpF0Rq
— NUANCE(ヌュアンス) (@nuance_official) 2023年4月22日
ナタリーさんの愛あふれるレポートはこちら。
僕の航海
帰り道、最寄り駅から自宅に向かって歩きながらヌュアンス楽曲をシャッフル再生すると、「last a way」が流れ出した。その瞬間、僕は濁流のような大きな感情に飲み込まれる感覚を覚え、同時に涙がとめどなく溢れてきた。こんな状態で帰れないと思い、傍にあったベンチに腰掛けて自分の感情と向き合った。
今回の県民ホールワンマンは、ヌュアンスのこれまでの航海の集大成だった。この日のステージには4人の現メンバー達だけでなく、これまで脱退していったメンバーや関わってきた関係者、そしてオタク達の、全ての想いが乗っていた。
僕は生誕委員なんかはやったことがないし、チェキループもしない…ちょくちょくライブに行ってチェキを撮る程度の一オタクに過ぎない。それでも、この日のライブには確かに僕の想いが含まれていた。ヌュアンスのこれまでの航海は僕の航海でもあった。
僕が渋谷のヴィレッジヴァンガードで『town』のリリイベに参加し、ミサキサンとチェキを撮った日から、僕は確かに「ドリーヌュ号」の一員となった。そして、僕はO-EASTやZepp Yokohamaや福島・三崎公園や新宿LoftやTIFや@JAMや代官山UNITや川崎CLUB CITTA’や浅草花劇場や横浜の商店街にヌュアンスと旅をしてきた。
推しだったミサキサンが脱退し、その後熟慮して決めた推しの珠理ちゃんが脱退しても、僕はライブに通い続けた。正直、オリメンが短期間で脱退していくのを見て(大丈夫かよ…)と思う時もあったし、界隈のグループが大きい箱でのワンマンを成功させるのを見て(今のヌュはこんな勢いないよな…)とやきもきする時もあった。それでも僕はただ、ヌュアンスのことが好きだった。
僕はこの日のライブを見て、この感情と旅路に意味があった、と思った。わかちゃんの言う通り全てのことがこの日のワンマンに繋がっていた。そんな想いが実感として胸に去来し、僕はベンチに座って数分間泣き続けた。
「ドリーヌュ号」の行方
わかちゃんが作ったという「ドリーヌュ号」の航海の軌跡を描く海図には、そのイラストが描かれている。最初はライオン、白熊、ペンギン、キリンが描かれているが、ペンギンが、次いでライオンが下船した。そこにコアラ、アルパカ、フクロウが乗船し、白熊が下船した様子が描かれている。
途中でこの船に乗ってきたオタクもいるし、下船していったオタクもいる。この船に関わる全ての人の想いを乗せて、”HOME”に戻ってきたこの船の航海はこれからも続いていく。心拍数はまだ下がりそうにない。
夜風をすり抜け船はそっと 見慣れた街へと舞い戻った
だけど何かが違ってるんだ 心拍数は上がったまま
タイトルは「セツナシンドローム/NUANCE」より。
*1:この設定は以前のワンマンから続いているものだ
*2:僕調べ
*3:音楽的には相当変なことをしているらしい
*4:結構嫌がってたらしいw
*5:後ろでバンドメンバーが小さく演奏してるのに、それと全然違うBPMでダンスレクチャーされたの謎だった…
*6:どうやらこれはこの後に出てくるメンバーの着替え時間を稼ぐためだったようだ
*7:MC時、落ちサビの初音さんとわかちゃんが手を繋ぐシーンで、手が空振ったという失敗があったことが明かされたw
*8:例えられた楽器は第一バイオリンのような恭美さん、チェロのような初音さん、ピッコロのような妃菜さん、トランペットのようなわかちゃん
*9:普段のライブではやらない、商店街ツアーなんかに限ってパフォーマンスされる曲だ