とあるKSDDのアイドル考察録

アイドルオタク9年目のKSDDがアイドルに関して色々考えてみます

フィロソフィーのダンスはキャズムを越えられるか(前編)

フィロソフィーのダンスは現在最も勢いがあるグループの一つだ。*1

最近は六本木ヒルズで行われたテレ朝夏祭りにも行ってきたが、「メジャー感」が出てきた印象を受ける*2。ただ、「メジャー感がある事」と「実際にメジャーである事」というのは雲泥の差があり、フィロのスはちょうどその過渡期にいるように感じる。そのあたりについて僕なりに考えてみた。

 

 

前提:アイドルにおけるキャズムとは?

イノベーター理論

イノベーター理論というものがある。対象マーケットの顧客を5つに分類する市場普及に関する理論である。

  • イノベーター(2.5%)⇒革新的な商品をいち早く購入する層。商品の良しあしよりも最先端の技術や新しい発想を重視し、それを早く取り入れることに意義を感じる
  • アーリーアダプター(13.5%)⇒流行に敏感で、自ら進んで情報を集める。自分が良いと思った商品を購入する。
  • アーリーマジョリティー(34%)⇒すでに話題になっているものを購入する。主流になりつつある技術・流行に乗り遅れることを恐れる
  • レイトマジョリティー(34%)⇒革新的な商品や新技術に懐疑的。主流が受け入れたことを確認してから行動を決定する。欅坂46とは関係ない。
  • ラガード(16%)⇒最も保守的。新しいものに関心がない。
キャズム

そして、この理論で重要なのが「キャズム」の存在である。「キャズム」とは、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在する溝を指し、この溝を越えるのが非常に困難かつ重要だとされている(図は下記サイトより)。

 

 innovator_and_chasm

 

hajimeteno-marketing.com

では、アイドルを一つの商品と捉えた時に「キャズム」はどこにあるだろうか?

キャズム」とは「新しい物好きから世間一般へ普及するタイミング」である。要は、キャズムとは地下アイドルと地上アイドルの境目と言えるのではないか。そして、フィロソフィーのダンスは今そのキャズムを渡ろうとしている状態にある。

idol-consideration.hatenablog.com

 

 分析:キャズムを越えるための成功の鍵は何か?

キャズムを越えられない原因

地下アイドルがキャズムを越えるところでつまずく原因を分析しているサイトがあったので引用する。

地下アイドルが「Zeppの壁」にぶち当たってしまう理由は、地下アイドル界のイノベーターやアーリーアダプタで構成されたコミュニティーの上限に達し、キャズムを超える際にマーケティングシフトに苦戦するのが原因ということです。

 

rionshirotori.com

 まさにその通り!ではどのようなマーケティングシフトを行うことが成功につながるのだろうか?地下アイドル文化のフォロワーと、一般人ではアイドルに対するスタンスがまるで異なる。マーケティングミックスの4P*3よりもっと根本的な部分をとらえる、STP分析をベースに考えてみたい。

STP分析

STP分析はセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字だ。詳細は下記サイトなどをご参照。

ferret-plus.com

 

①セグメンテーション

セグメンテーションとは、対象となる市場の顧客を細分化することである。細分化する際の観点には様々なものが考えられるが、②ターゲティングとセットで考えたい。

 

②ターゲティング

市場の中から狙うべきターゲット層を絞る作業である。この時に市場で求められているニーズを捉えてそこに迎合するというのも考えられるが、地下アイドルの場合だと活動の中で自身の強みが明確になってきているので、その強みを生かせるようなターゲットを狙いに行くのがよいだろう。

その際に注意するべきことは、「既存の大手アイドルファン」はターゲットにするべきではない、と考える。既存の大手アイドルファンは単一のグループしか推さない人が多く、地下から出てきたアイドルグループに興味を示すことは少ないと思われる*4

なので、ターゲティングを行うときには「アイドルファン」などの固定観念にとらわれることなく、自身の強みを把握したうえで、そこを好きになってくれる層を地域・年齢・既存の趣味を問わずに狙うべきだ。そして逆に言うとその強みを好きになってくれる層が絶対数として少ないのであれば、一生売れないという事だ*5

 

③ポジショニング

セグメント内の競合の商品・サービスに対する自社のポジションを決定する作業である。競合を分析して、自社が優位を取れる場所にポジションを取ることが必要となる。

通常の商品の場合だと、「価格」や「機能性」で優位性を確立することを検討すべきだが、アイドルの場合は、顧客に提供する価値が「よりよいライブ体験」や「元気」など、抽象的なものなので、優位性を確立することはなかなか難しいと思われる。

また、複数のアイドル・アーティストのファンになるのは一般的であり、競合に対して勝つことは必ずしも重要なことだろうか?ポジショニングを検討して競合に勝つことよりも、顧客体験を徹底的に向上させることで、結果的に競合に勝つというプロセスを辿るのがあるべき姿ではないだろうか。

 

以上より、アイドルがキャズムを越えるために重要なのは「自らの強みを把握すること」、「強みが刺さるターゲットを明確にすること」、「そのターゲットの顧客体験を向上させること」の3点だと仮定しよう。

 

補足:これまでアイドルはどのようにキャズムを越えてきたか?

では、ここでキャズムを越えてきたアイドルを何組か見てみよう。

ももいろクローバーZ

ももクロキャズムを越えたのは、一気に箱のサイズを拡大した2011年頃のことだろう。ターニングポイントとしては早見あかり脱退&グループ名変更が象徴的だ。

当時のももクロにとっての強みは、「行くぜっ!怪盗少女」や「ピンキージョーンズ」等の従来のアイドル楽曲と異なるサウンドを取り入れた楽曲と、夏菜子のエビぞりジャンプに象徴される全力パフォーマンスだろう。


【ももクロMV】ピンキージョーンズ / ももいろクローバーZ(MOMOIRO CLOVER/PINKY JOHNS)

そして、それらの強みが刺さるターゲットは、バンドファンとプロレスファンを含むサブカルだった。例えば、神聖かまってちゃん気志團とのツーマンによって、アイドルファン以外のバンドのファンを取り込み、プロレスの前座に出演したりすることでプロレスファンを取り込んだ。

そして、顧客体験の向上については、ファンの帰属意識を強化したことがポイントだろう。モノノフは、各担当カラーのグッズを身に着けることで、自らを特定のメンバー推しだと自認する*6。そして、数々のエピソードをファンと共有することで、物語を追体験させるということで、ライブ以上の楽しさを生み出したのがももクロの強いところだった*7

 

でんぱ組.inc

でんぱ組がキャズムを越えたのは、WWD、でんでんぱっしょんという象徴的な2曲をリリースした2013年頃だろう。その後、2014年の武道館公演へと繋がっていく。


でんぱ組.inc「でんでんぱっしょん」MV【楽しいことがなきゃバカみたいじゃん!?】

でんぱ組の強みはガチのオタクによって構成されたメンバーと、でんぱソングと言われる楽曲群だろう。そのターゲットとしては「アキバ系が想定される。それただのアイドルオタクやんけ、という声が聞こえてきそうだが、アキバ系にはもっと広い意味がある。例えばアニメ好き、ゲーマー、陰キャ*8など、「アキバ系」は所謂メインカルチャー以外の各界のオタク等を包摂する概念だ。そういった層に対してゲーマーのメンバー(古川未鈴最上もが)や、ボカロを彷彿とさせる電波ソング、いじめられた経験をそのまま歌詞にする精神性などが刺さったのではないだろうか。

ディープな世界特有のオタクの一体感というのがでんぱ組の顧客体験のキモだった。アイドル現場は拡大するほど、コールの統一やファン発信イベントが困難になっていくものだ。しかし、でんぱ組に関してはオタク有志によるコール本の準備や、モニターでオレンジリウム口上を映すなど、アンダーグラウンドな世界を大きな会場であっても体験させてくれるという点が、顧客体験の向上につながったのではないだろうか。

 

 

次回のエントリでは、フィロのスが取るべき戦略について考えていきたい。

*1:推しの贔屓目かもしれないが…

*2:ここでいう「メジャー」は所謂「メジャーデビュー」の意味ではなく、もう少し曖昧な概念。というかフィロのスはいつでもメジャーデビューくらいは可能だと思っている

*3:Product,Price,Place,Promotionの頭文字をとったものでマーケティングをする際の重要な4要素

*4:例えば乃木坂ファン、モノノフなどは同事務所の系列グループを推すことはあるかもしれないが、それ以外に手を広げる人は多くないだろう

*5:普通のビジネスなら商品の改善などをクイックに図れるが、「人」が商品である以上、なかなか難しいことだ

*6:僕も黄色のタオル・Tシャツ・法被・ペンライトなど当然持っている

*7:こういうことができるのはメンバー一人一人が強烈な個性を持っていたからだ

*8:ただの悪口みたいだが、、、そういう意図はない